- 1 未来的思考
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日頃の弁護士業務といえば、起こった事件の後始末的な業務が中心のため、「懐古的思考」が頭を巡ります。
しかし「法教育」は、受け手である子供達が将来活躍するだろう社会を思い描くことが中心のため、「未来的思考」が頭を巡ります。
この未来的思考が、日常の気分転換になれば……という思いで、今回私は模擬裁判のシナリオ原案を担当させていただきました。
- 2 模擬裁判の事件
午前中は模擬裁判を実施し(参加したのは中高生53人)、午後からは子供達に7人程度のグループに分かれてもらい、模擬裁判の出演者がチューターとなり、評議を実施しました。模擬裁判の事件は、次のとおり。
「被告人A(21歳)には、中学時代の先輩Bがいたが、Bがコンビニで、携帯ストラップを万引した。店外駐車場には、Aの車が停車しており、Bが乗り込んだ。すると店員Cが犯人を逮捕しようと、その車の上に登ってきたが、Aはそのまま車を発進させてしまった。その後、A車は蛇行運転を繰り返し、結果的にCを振り落とし、全治2カ月の傷害を負わせてしまった。」
これを題材に、事後強盗殺人未遂・窃盗のみ・殺人未遂のみ・傷害のみのいずれが成立するのかを評議してもらったのですが、論点として、
()Bと被告人との間に窃盗の共謀があったのか、
()被告人にはC殺害についての未必的故意があったのか、の2点に絞りました。
- 3 実施にあたっての創意工夫ポイント
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- 裁判員制度を意識して、視覚に訴えるため、power pointによる文字・アニメーションの映写を全編に導入した。
- 裁判員制度を意識して、論告・弁論とも、話し言葉で、一般市民の感情に訴えるような方法を採用した。
- 以前、中学校教師の発言で「子供の集中力は、テレビ番組と挿入されるCMとの関係かもしれませんが、せいぜい15分程度です」というものがあった。そこで劇中でも、進行役を15分おきに劇に介入させて、場面の切り換え感を意図した。
- 従前、弁護士サイドは、演技に情熱を注いできたが、教育観点からは、評議こそが重要であると位置づけ、チューターは「相手の意見を踏まえたうえで発言する」、「初めて会った人にも、説得力をもって説明できる」等にも配慮して進行するようにした。
- 幕間に出演者からの提案で、会場の子供達から、アドリブ的に被告人に質問してもらうことにした。これで会場は、かなりの熱気に包まれた。被告人役大瀧保会員は、犯人になりきりつつ、大汗かいておられましたが。
- 4 アンケートから
参加者アンケートによると、「弁護・検察に分かれて議論すると自分の意見も言いやすいけど、中立の立場だと、みんなの意見が正しいように思えて何が正しいのか分からなくなった」という感想から、我々としては通常の弁護活動の演技に見えても「もっと弁護士さんに演技力を付けて欲しい」という、将来の裁判員制度を考えさせられる意見や、「自分達からもっと質問したい」、「評議の時間(1.5時間)をもっと増やして欲しい」、「量刑まで議論したい」という要望まであったが、総じて好評でした。