会報「SOPHIA」 平成18年8月号より

サマースクール「刑事模擬裁判」を傍聴して

愛知県立平和高等学校教諭
森 岡 剛 洋

愛知県弁護士会サマースクールの最終日、「刑事模擬裁判」を傍聴させて頂きました。普段の生徒引率ではなく、“傍聴”ですので、少し肩の力を抜いて冷静に周囲の生徒の皆さんを観察しながら、自分自身も楽しむことができました。

当日は、午前に刑事模擬裁判劇「コンビニ強盗殺人未遂事件!」が実際の法廷を再現して2時間にわたって行われました。「コンビニ強盗殺人未遂事件」という設定と、よく練られたシナリオは見応えがあり、生徒の皆さんは詳細にメモを取り、会場内に走るペンの音が止むことがありませんでした。午後は各グループに分かれての評議が1時間30分続きました。最も若い中学1年生のグループでは、「弁護士バッジ見せて」「どうしたら弁護士になれるの」という質問が出るような和気あいあいといった雰囲気で、しかし午前の模擬裁判についての評議はしっかりとなされていました。模擬裁判に出演していたそれぞれの弁護士がチューターとしてうまく進行され、意見を引き出していたのがよくわかりました。また、高校3年生のグループでは空気も張り詰めていて、「未必の故意」「任意性」や「再審・冤罪」といった事実認定の核心に迫る熱心な評議がなされており、あっという間に時間が過ぎていきました。

さて、今回の刑事模擬裁判と評議を傍聴・見学して、3つの点について感想を述べます。まず参加していた生徒の皆さんについて、非常に意識の高い生徒が多く、また熱心であると感じました。そもそもこの「サマースクール」は教員の引率ではなく生徒自らが申し込み参加するものなので、やる気のない者はいないのですが、予想以上に一人で参加している生徒が目立ちました。

次に弁護士の方々の雰囲気がいい、ということです。評議の内容は高度なのに堅苦しくならないように心配りをしてみえました。発言することが苦手な生徒に対しては質問を変え、わかりやすくいろんな切り口で問いかける方法は、まさに答えを引き出し導いている、と感じました。弁護士は「言葉」で勝負する、言葉とはその意味だけでなく、強さ、アクセントと目線、身振り手振り、タイミングなどを含めたもので、なるほど道理で模擬裁判の演技も迫真だったな、と合点しました。

最後に裁判について、相当な時間と労力が払われているということが実感できました。私自身、名古屋地裁で幾度となく傍聴しましたが、この刑事模擬裁判と評議を傍聴・見学して初めて、実は法廷以外の場での評議と事実認定が如何に大変で重要な作業であるかと、わかりました。それこそ「事実は何なのか」を突き詰めていく重要な作業なのだと。参加した生徒の皆さんも長時間集中し熟考することで同様に感じたのではないでしょうか。

今年は部活動と補習の合間を縫って見学することができました。高校公民科で扱う「裁判所」の単元は、授業では講義が中心で画一的になりがちですが、この「サマースクール」の企画を授業にも取り入れて、生徒の興味・関心を喚起していきたいと思います。また生徒に対する弁護士の言葉の使い方、導き方は大変参考になりました、あと演技力も。さらに、最も参考にしたいのは弁護士会のチームワークと元気です。どうもありがとうございました。






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