会報「SOPHIA」 平成18年7月号より

《日弁連サテライト研修》
テンプル大学ロースクール教授による公判弁護技術セミナー

会 員 堀 田 千津子

 平成18年7月20日、テンプル大学ロースクール教授の公判弁護技術セミナーが午前10時から午後5時まで開催された。午前中は、陪審員裁判における弁論技術についての講義を行い、午後からは、冒頭陳述、証人尋問、最終弁論の実演が教授らにより行われた。


弁護技術について(午前中)
 弁論技術については、「弁論の成功は表現で決まる、分かり易く話すこと、視覚資料を用いること、ありふれた話や例を用いること」「説得力とは、弁護人の個人的信頼である、弁護人の服装や言葉使いや態度は重要である」「人間の感情がその人の決断に働く役割を認識すること」「誠実さを表現すること、陪審員の関心ごとを予測し、それらを取り扱うこと」が重要である。
 また、冒頭陳述は、さえぎられること無く事実を語ることができ、陪審員に初めて事件の実態を話す機会であるから、事実に関して好意的なイメージを与えるようにすること、証拠によって明らかにされる事実を告げ、推論や反語的疑問、法解釈について意見を述べることは避けるべきである。立証ができない事実や証拠、個人の意見を述べることも避けるべきであるし、同情や先入観に懇願することも誤った冒頭陳述である。
 証人尋問のうち、反対尋問の技法としては、段階を経ること、話を飛ばさないこと、始めは大胆に終わりはより大胆に、証人に復唱や説明はさせないこと、事実のみを問い、意見は不要、常に誘導することが重要である。
 最終弁論は、相手側を打ちつけよ、先制の打撃が重要である。しかし、相手側の議論を信用する誠実さも必要である。


実演(午後)
 しかし、状況は午後になると一変した。
 冒頭陳述の実演では、身振り手振りを交えて、全ての文章を暗記した教授が、感情をこめて女優のように物語を語った。被告人の紹介にとどまらず弁護人自身の自己紹介を行った上で、被告人は被害者であることを連綿と訴えた。
 以前、否認事件の準備手続の段階で「弁護人の冒頭陳述をさせて下さい」と裁判所にお願いをしたが、裁判長には決して認めてもらえなかったことを考えると、果たして、日本の刑事裁判の冒頭陳述で女優を演じることができるのか、不安が残る。
 証人尋問の実演に至っては、証人の宣誓が終わるや否や、弁護人役の教授が、証人を指差して「あなたは嘘つきですね」と大声で何度も連呼した。これは、陪審員が「証人は信頼できない人物である」と思うようにするための発言だそうである。日本の刑事法廷でそのような発言をすれば、廷吏に法廷からつまみ出されてしまうかもしれない。また、そのような危険を冒して証人を「嘘つき」呼ばわりをしたとしても果たして裁判員に「この弁護士は信頼できるが、証人は信頼できない」と思ってもらえるのか、極めて疑問である。


感想
 午前中の講義は民事にも刑事にも役立つ内容が多く充実していたと思われるが、午後の実演は、かの国との文化の違いを痛感させられ、日本ではあまり実行しないほうがよいのではないかと考えさせられた。実際には、ここまで弁護人には時間がもらえないであろうとも予測されるし、私には、証人尋問冒頭から発言もしていない証人を嘘つき呼ばわりする勇気もないからである。





行事案内とおしらせ 意見表明