会報「SOPHIA」 平成18年7月号より

刑事弁護人日記(34)
(国選)特別案件??

会 員 秋 田 光 治

受任の経緯
 弁護士会の刑事弁護委員会に出席した折りに、受任者がなくて困っているということで依頼を受けたと記憶している。当初起訴から10か月経過しているが、すでに国選弁護人が3人交代しているので、今後は交代なく審理終結まで遂行してほしい。特別案件として弁護人2名態勢にするとのことであった。
 「特別案件」とはいうものの、罪名は、恐喝未遂と暴力行為等処罰に関する法律違反・銃刀法違反ということで、死刑はあり得ないし重罰事件でもないから受任することにした。


事案の概要
 被告人は、自転車に乗って横断歩道を渡っていたところ、後方から右折してきた自動車に跳ね飛ばされ、頭蓋骨骨折、頭蓋内血腫、肩・腰部(骨盤・恥骨)骨折の重傷を負い、事故当日は意識不明に陥っていた交通事故被害者であった。
 事件は、(1)事故から2週間後、入院中で骨折部位がまだ癒合せず相当の痛みが残っていた被告人が、車椅子に乗った状態で、見舞いに来た加害者の態度が悪いと言って殴ったり金銭要求した行為(事実に争いあり)、及びその1か月くらい後、加害者宅の留守番電話に、数回、脅迫文言を録音した行為が恐喝未遂とされ、(2)示談成立後、相手方弁護士の事務所に追加金の支払いを求めて訪問した際に洋包丁をちらつかせたことが示凶器脅迫、(3)翌日、同じ包丁を携帯して同事務所前に行ったことが銃刀法違反(刃物携行)に問われた。


被害者はどちらか?
 弁護士事務所に刃体の長さ14cmの洋包丁を持参したというだけで、「こんな被告人は死刑にしても足らない。」と思われる向きもあろう。だが、内容をみると変な話でもある。  被告人は、新規就職から1週間も経たない間に通勤途上ではねられて意識不明の重傷。失職を恐れて未だ骨折部分が癒合もしていない間に退院し、すぐに勤めに出たが、痛みでまともに仕事ができず失職。示談金を早く貰いたくて、医師に早すぎる症状固定の診断書を書いてもらい、意識不明にも陥った重傷事故から僅か38日後に既払金15万円を含めて36万円余で示談。失職したのですぐに資金がつきて、示談相手の弁護士に追加金を請求したことから本件に至った。
 被告人が事故直後に保険会社担当者から聞いた賠償額の予想は50万円で、診断書から想定される自賠責賠償額とほぼ一致する。ところが、成立した示談金額は、これを大幅に下回る。また、恐喝未遂事件とされた行為で、示談前、初めて謝罪に来た交通事故加害者に要求したとされる金額は、50万円。保険会社担当者から聞いた金額と同じである。  受任後、被告人と接見した私は、「弁護士会の基準からすれば、軽く100万から200万円は貰えるはずだ。弁護士に相談していたら刑務所に行くことにはならず、しかも何倍もの賠償金が得られたはずだ。」と話した。前科の関係で執行猶予はあり得ない立場にあった。
 ちなみに、恐喝未遂罪の被害者である交通事故の加害者は、1週間前にも同じ場所で同様の交通事故を起こしていた。そして、本件で重大人身事故を起こしたにもかかわらず、逮捕もされず、公判の証人として、鎖骨や腰の骨折をして車椅子に乗っていた被告人から殴られ、金銭要求されたという様を得意そうに証言して行った。  どこで入れ替わってしまったのか?・・・
 他に、弁護人が何人も交代するに至った一因と思われる被告人からのおびただしい手紙や接見の機会の面白い話もあるが、紙数の関係で、今回は割愛する。






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