会報「SOPHIA」 平成18年6月号より

あっせん・仲裁センターだより
医療過誤事件と当会のあっせん・仲裁手続の利用について
 


あっせん・仲裁センター運営特別委員会
委員長  水 野   聡

 当会のあっせん・仲裁センターの特色の一つとして、医療過誤事件の申立件数が多いことがあげられる。他会からも、医療過誤事件について、なぜ、弁護士会ADRが利用されているのかについて、強い関心が寄せられている。そこで、以下、医師側及び患者側の代理人をされている弁護士から、その実情等を伺い、平成18年2月16日に行われたあっせん・仲裁人研究会等での報告を紹介する。

 最初に、医療過誤事件の申立件数と和解成立件数(平成18年2月13日現在)であるが、平成16年度は申立件数30件、和解成立件数9件(継続件数1件)、平成17年度はぞれぞれ30件、7件(7件)である。ちなみに、平成12年度は申立件数16件のうち10件が、平成14年度は申立件数9件のうち7件が和解で解決している。

 当センターへの申立ては主として患者側からなされているが、患者側の弁護士から伺ったところによると、@当センターに申し立てる事案は、医師の過失に争いのない事案であることが多い。Aその場合であっても、実務上、示談交渉段階では医師側から賠償額の提示がなかなかなされないことが多いので、当センターを活用している。B弁護士のあっせん・仲裁人により、迅速かつ妥当な解決を図ることができるからである。Cなお、医療過誤事件に特殊な損害賠償額の算定がなされているとは意識していない。交通事故の損害賠償算定基準に依拠して算定されている、とのことであった。

 これに対して、医師側がこの手続で紛争を解決しているのは、以下のような条件がある場合である。@医師会のA会員(A1(病院・診療所の開設者・管理者個人)、A2(勤務医))は、日本医師会の医師賠償責任保険に加入している(B会員は医賠責の適用を受けない勤務医、C会員は研修医)。A医師賠償責任保険は100万円以下は免責であり、その部分は、医師個人が支払うか、別に100万円までの保険に加入していれば、その保険で支払われる。愛知県医師会の委員会で、有責、無責を検討し、保険会社もその結論を尊重している。B賠償額100万円から1億円までは、医師賠償保険審査会の審査を受ける。そこで、「無責」という判定が出ると、「判決」、「鑑定」等の客観的資料がないと、この判定は動かすことができず、当センターでの解決にはなじまない。Cこれに対して、「有責」の判定が出た場合には、上記賠償保険額の範囲で、解決が可能であり、この場合は、当センターでの解決の可能性がある。Dこれ以外に、法人病院や大学病院(独立行政法人)については、損害保険会社との間で医師賠償責任保険に加入しており、この法人が当事者となる場合には、日医の医療保険審査会の対象外であるので、当センターによる解決の可能性がある、とのことであった。なお、この場合も、実務上、損害保険会社の有無責の判定に愛知県医師会の委員会の意見を聞いているようである。

 当センターでは、専門委員を、医師(産婦人科医、小児科医)、歯科医師に委嘱しており、必要な医療知識や意見等を問い合わせることができるような体制をとっているが、今後、他の専門分野の医師を確保するなど、一層の充実を図っていきたい。




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