会報「SOPHIA」 平成18年5月号より

「コノクニノミライ〜憲法が変わればココロも変わる?」
憲法週間記念行事(5月20日開催)


会 員   積 木   潤

1.
5月20日、名古屋市中区役所ホールにて、名古屋市・当会共催の憲法週間記念行事が開催され、第1部に「〈私〉の愛国心」等の著作で知られる精神科医の香山リカ氏による講演、第2部に香山氏と憲法学者の森英樹氏とをパネラーとするパネルディスカッション(コーディネーター:那須國宏会員、松隈知栄子会員)が行われた。以下、概略をご報告する。


2. 第1部 香山リカ氏講演
 今なぜ憲法改正や愛国心が叫ばれるのか、精神科医の視点からの分析が語られた。
 香山氏によれば、90年代以降、バブルの崩壊、テロ、食物の安全性に対する不安等、次々と我々の生活基盤が揺らぎかねない出来事が起こり、現在の日本人は不安の中にあるという。不安の中ではこれを打ち消そうとする心の防衛システムが働く。例えば、問題は自分自身の中にあるのに他のものの中に問題があるかのように考える(「すりかえ」)、自分が有する問題と同じ問題を他のものの中に見つけそれを憎む(「投影性同一視」)のがその例である。現在の憲法改正、教育基本法改正の議論の背景にはそのような心の防衛システムがあるのではないか、国が個人の心の防衛システムを利用しようとしているのか定かでないが、言えることは、他のもの(憲法や教育基本法)が変わっても問題(自分自身の不安)は解決しない、とのことであった。


3. 第2部 パネルディスカッション
(1)なぜ今「愛国心」なのか。
森氏:プラザ合意以降の経済のグローバル化、バブルの崩壊等を経て、日本は世界の激烈な競争の中にあり、これを乗り越えて行くために「愛国心」が叫ばれるのではないか。その意味では、香山氏の言われる「不安」と共通する部分があるかもしれない。
(2)「愛国心」について
森氏:愛国心の「国」の概念には、国家の制度、政府といった政治的意味合いを含む概念と郷土、国土といった政治的意味合いを含まない概念があり、区別して考える必要がある。
香山氏:「愛国心」の前提には他国との区別が前提にあるが、現在言われている「愛国心」はそのような区別を超え日本の優越性を強調する意味合いがあるように思う。
(3)憲法改正の議論について
森氏:憲法は国家権力を名宛人としこれを制限するためのものであって(立憲民主主義)、国民に義務を課すものではない。現憲法に規定のある国民の三大義務も権利保障を前提とするものである。憲法改正を考える際には、そのことをよく理解しておく必要がある。


4. おわりに
4月末に政府が愛国心に関する条項を盛り込んだ教育基本法改正案を国会に提出し、これを受けて民主党が対案を発表した直後の時期ということもあり、市民の方々の関心は高かったようである。定員500名のホールが満員となった。会場には、熱心にメモを取る方の姿も多く見られ、数多くのアンケート回答、質問票が寄せられていた。








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