憲法問題シリーズ第8回
加藤紘一氏の語る改憲論
〜憲法9条と安全保障〜
1 はじめに
本会では、会員の憲法問題に対する理解を深めるため、著名な政治家を招いて憲法学習会を開催している。その3回目が、5月29日、弁護士会館5階で開かれた。今回招かれたのは自民党重鎮の加藤紘一氏であった。
会場に詰掛けた65名の会員は、加藤氏が何を語り出すのか固唾をのんでいたが、冒頭、名古屋市白壁の瀬戸電近くで出生したと加藤氏が切り出しことから、会場は和やかな雰囲気に包まれた。
加藤氏の講演は、概要次のとおりである。
2 憲法改正への道のりについて
憲法全面改正にはまだまだ時間がかかるというのが実際のところだ。
なぜなら、@平時に憲法の全面改正がされる気運が生まれない、A日米安保を堅持しつつ対米自主憲法を制定するちぐはぐ感が強い、B国のあるべき姿が十分議論されていない、といった問題があるからである。
3 9条改正問題をどう考えるか
憲法9条の改正は、日本の外交政策の軸足に関わるため、大変難しい問題だ。
自衛のための戦力保持・交戦権行使を憲法上明らかにすることについては、国民の合意が得られるとしても、集団的自衛権を認めるか、どこまで認めるか、という難問が残る。この問題については、日本をとりまく状況から具体的に論じたい。
4 日本の安全保障
まず、現在の日米安保は当面維持せざるを得ない。
日本の安全保障のパートナーとなりうる国は、現在、米国しかないからである。ロシア(過去に裏切りアリ)・中国(中国が断わる)・韓国(韓国も乗り気でない)・台湾(日中関係が断絶するので無理)との安保はおよそ実現可能性がない。
日米安保を維持するとしても、現在の片務的な内容を改め、周辺有事の際にも対米協力すべきか問題となるが、国連決議が明確にない限り日本は米国の武力行使に付き合わない、との歯止めが必要である。
5 日米安保を超えて
日米安保は重要だが、これだけでアジアの安定が図れるわけではない。米国との関係を大切にしながらも、アジア諸国と強い政治的・経済的連携を築いていくしたたかな外交戦略を立案すべきだ。
かかる外交戦略を実現させるためにも、対アジア関係を悪化させ、対米関係にまで悪影響を与えつつある靖国参拝問題は、早期に解決(自重)されるべきである。
なお、将来的な話にはなるが、今後の国際社会における責任分担の見地から、集団的自衛権の行使を憲法上認める方向で考えるべきだ。具体的には@国連の常設軍が安保理で認められるようになったら参加すべきだし、Aアジア集団安全保障体制が樹立され、警察軍の参加が条件づけられたら参加すべきである。
6 感想など
加藤氏の講演は、非常にざっくばらんで分かりやすく、話題も多方面に亘り、退屈しなかった。そのせいか会員の質問も熱心にされていた。
個人的には加藤氏の憲法論を全面的に受け入れることはできなかったが、講演にふれ、憲法に対する新しい視座を得られたことは収穫だったと思う。
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