子どもの事件の現場から(47)
ちょっといい話・・・
今回は、子どもの事件というよりも、関わった子どもから教えてもらった「ちょっといい話」をご紹介します。
彼とは、もう5年ほどの関わりになります。現在は既に成人となっています。彼は、親からの身体的虐待、ネグレクト、兄との差別など凄まじい虐待を受け、自暴自棄になり、現実逃避するようにシンナーと自動車の窃盗など逃避の世界に浸っていた時期がありました。そんな時期に、私は少年事件の附添人として彼との関わりを持ちました。自分らしく生きたいと思いつつも、自己評価が低く自分を追いつめてしまう彼は、試験観察中にも自殺未遂に至ったこともありました。保護観察となった後も、身勝手な親に振り回され精神的に不安定な時期が続きました。そんな中、彼を支える彼女ができ、その彼女の両親も彼を本当の息子のように接してくれました。その後、彼は、彼女と結婚しかわいい男の子も授かりました。働きながら、ボクサーの資格をとり、新人戦を目指し頑張っていました。
そんな中で、彼女と喧嘩になり離婚することになってしまいました。それでも、義理堅い彼は、大切な息子と色々世話になった彼女、彼女の両親のことを想い、生命保険に加入した上で自殺して保険金を彼女に受け取らせようと思ったそうです。
自殺によって保険金が出るかどうか分からなかった彼は、私に電話しようとも思ったらしいのですが、絶対に止められると思ったことから、電話帳で片っ端から弁護士を捜して電話したそうです。一人目の弁護士には「私は専門じゃないから」といわれて断られたそうです。ところが、二人目の弁護士は、まず彼の名前と電話番号を聞いた上で、約20分〜30分話を聞いてくれたそうです。彼は「借金を残して死んだらどうなるか」ということから始まり、保険金の話に繋げて聞こうとしたらしいのですが、その弁護士は破産の手続を説明し、自殺などする必要はないと話してくれたそうです。さらに、翌日、その弁護士から彼の携帯電話にわざわざ電話があり、クレサラ相談日を教示した上で、「あなたは何も死ぬ必要ないんだからね。しっかり生きなさい」と話されたそうです。
その後、彼は結局自殺未遂に至ってしまいます。離婚はしたもののお互いにまだ想いを棄てきれなかったのですが、言い争いの中で彼女に暴力を振るってしまい、そのことを悔いて自殺しようと思ったのです。夜中に、彼女から連絡を受けた私は、夜中彼がいると思われる場所を探し回りましたが、途中からは、「俺がこんなに探しても、きっと彼はどこかですやすやと眠っているだろう。大丈夫だろう」という悪魔のささやきに負け、途中で帰宅してしまいました。翌朝、警察から彼が意識不明で見つかったとの連絡がありました。病院では後遺障害が残る可能性が高いといわれました。途中で都合よく解釈して帰宅してしまった自分が情けなくなりました。しかし、幸いにも後遺障害もなく、最近は、私がずっと勧めていたカウンセリングに行き始め、再びボクシングに打ち込むようになりました。
彼の自殺未遂の話はともかく、飛び込み相談の彼に対して丁寧に対応して下さった弁護士さんの話・・ねっ・・いい話でしょ・・。振り返って私が同じことができるかは自信がありません。
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