中弁連刑事弁護経験交流会
被告人(被疑者)の立場から見た刑事裁判
- 2月25日、中弁連刑事弁護経験交流会が四日市シティホテルで開催された。前半には「被告人(被疑者)の立場から見た刑事裁判」と題する安田好弘弁護士(二弁)の講演が、後半には公判前整理手続の運用状況に関する各地からの報告が、それぞれ行われた。
公判前整理手続の各地の運用は、改正刑訴法施行から4ヶ月ほどしか経過しておらず、まだ固まっていない。紙幅の関係もあり、前半の講演について報告する。
- 数々の死刑事件に取り組まれて多くの無期懲役への減刑を勝ち取られ、オウム真理教松本智津夫被告人の主任弁護人を務めていた安田弁護士は、平成10年12月6日、オウム事件の弁護団会議後に強制執行妨害罪の嫌疑で逮捕される。最高刑が懲役2年にすぎない罪の疑いで、以後平成11年9月27日に保釈されるまで約10ヶ月間身柄拘束は続いた。1審の無罪判決が出されたのは平成15年12月24日(判時1908号47頁)。検察官控訴され、現在も控訴審の審理が継続中である。
- このように被疑者・被告人の立場に置かれ、長期間の未決拘禁を身をもって体験された安田弁護士が、前半の講演で、現在の刑事手続で被疑者・被告人の置かれた立場、未決拘禁の実態、被疑者・被告人の認識と弁護人のそれとの温度差などについて、抑制を利かせた口調で、切々と語った。権力により無実の罪に陥れられた憤り。監獄内で様々な自由を奪われ虐げられる苦痛。その中で防禦を強いられ、弁護人との意思疎通もままならないもどかしさ。その静かな重い口調が、当時の安田弁護士の心境などを私に想起させ、涙なしに聞くことができなかった。
安田弁護士のお話のうち印象的な箇所をいくつかご紹介する。
「被疑者・被告人から見て、弁護人は、圧倒的に力・立場に差がある一方、唯一絶対の頼みの綱。被疑者・被告人は弁護人の機嫌を損ねないよう言いたいことも遠慮する。弁護人は被告人からの批判にさらされない。これらを常に意識し、謙虚でなければならない。声なき声に耳を傾ける姿勢が必要。」
「被疑者と弁護人との間の、逮捕されるという危機感についての温度差。同じ法曹との理由で弁護人が検察官や裁判官に期待を寄せることへの違和感。このような温度差・違和感は避けがたいが、それを埋めるのは、常に状況を厳しく見つめ、最悪の事態に備え続ける姿勢である。」
「監禁され、虐げられ、脅迫される…これが未決拘禁の現実。捜査機関の完全な支配下にあり、苦痛と絶望の中にある。弁護人が捜査機関の違法不当に対して抗議をする。また、被疑者が取調状況をノートに逐一記載する。これらが違法不当な取調べの抑止となり、被疑者の苦痛を和らげる。内と外との連携した闘いが必要である。」
「調書が開示され弁護人の態度が微妙に変わる。客観的証拠を持たない被告人に弁護人の説得は困難である。弁護人が努力するしかない。被告人の言うことを無条件かつ全面的に信頼し、検察側証拠を無条件かつ全面的に疑う。それが出発点である。」
「今の刑事司法の構造的問題。何ともやるせない気持ちになる。一体どうしたらいいか。刑事弁護を担う若い人たちを育てることしかないと思う。若手を刑事弁護に駆り立てていく仕組み。それを作り上げていくしか道はない。」
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