会報「SOPHIA」 平成18年2月号より

憲法問題シリーズ第5回

憲法改正国民投票法をめぐる動向について

憲法問題特別委員会
委員 岩 月 浩 二

  1.  憲法改正国民投票法について、自民党は今通常国会で成立を目指す方針と伝えられている(2月20日現在)。
     憲法改正について如何なる立場に立つにせよ、国民の意思が最大限正確に反映されることが求められるのはいうまでもない。
     この観点から、国民投票法をめぐる論点のいくつかを紹介しておきたい。

  2. 改正項目毎の投票方式か一括投票か
     憲法の改正点が複数にわたった場合に各項目ごとに賛否を問うのか、全体を一体のものとして抱き合わせで賛否を問うのかは、重要なポイントである。しばしば指摘されるのは、環境権の明記と9条の改正という関連性のない項目を抱き合わせで賛否を問うのでは、国民の意思を適正に憲法改正に反映させることができないという批判である。
     この点、最近の報道によれば、自民党は、憲法の各章ごとに賛否を問う方式で他党との調整を図る方針とされている。
     しかし、各章ごとに賛否を問う方式もまた、適正な国民意思の反映という点では極めて危ういものがある。
    人権の章を例に挙げる。たとえば、自民党新憲法草案は、人権総則規定において、「公共の福祉」概念に代えて「公益」や「公の秩序」を基本的人権制約法理として導入しようとしている。「公益」には当然「国益」も含まれる。したがって、同草案は、基本的人権を「国益」や「公の秩序(社会秩序)」に従属させる構造となっている。
     ここで問題なのは「『公共の福祉』と『公益』は異なる」などという当業界の論理は国民には極めてわかりにくいことである。したがって、「公益」に従属する「新しい人権リスト」をちりばめた改正案はそれ自体としては魅力的に映り、第3章の改正に賛成する票が多数を占めることがあり得る。国民的合意がないまま、人権概念の根本的変容がもたらされることは十分にあり得るのである。
     したがって、少なくとも、改正項目ごとの賛否を問う方式によることは、最低限の条件である。

  3. 国民投票運動の制限
     国民の意思を適正に反映するためには、国民に対して改憲の是非の情報が十分に提供され、広範な国民的議論がなされることが不可欠である。そのため国民投票運動の自由は最大限に保障されるべきである。
    しかし、与党の「国民投票法骨子」によれば、国民投票運動について広範な禁止制限規定を定め、不明確な構成要件によって刑罰を科すものとなっている。公務員・教育者(憲法学者も含む)の運動制限、外国人の運動の全面禁止、予想投票公表禁止、メディアに対する過剰な報道制限等がそれである。
     こうした規制は、国民投票運動に著しい萎縮効果をもたらし、自由で多様な意見表明を抑制し、国民の意思を適正に憲法改正手続に反映することを困難にする。
     上記の内、メディア規制については自民党は原則自由とする方向で他党と調整を図る方針と報じられている。正直なところ、法規範性がないに等しい自民党憲法草案の環境規定を「環境権の新設」等と繰り返し報道する某メディアにはうんざりしている。しかしながら、思想の自由市場を信頼する立場に立つ以上、ミスリーディングなメディアを含め、国民投票に関する表現の自由の規制には基本的に反対すべきなのであろう。








行事案内とおしらせ 意見表明