会報「SOPHIA」 平成18年2月号より

裁判員裁判における2号書面の取扱い

(第2回法曹三者裁判員模擬裁判の弁護人を担当して)

刑事弁護委員会 委員 鬼 頭 治 雄


  1. 概 要  2月16日と17日の2日間で第2回法曹三者裁判員模擬裁判が実施された。今回は刑事4部(柴田裁判長)が担当し、弁護人は私、金岡繁裕委員、西村俊一委員の3名が担当し、被告人は佐竹靖紀委員が演じた。  事案は、被告人が、共犯者と共謀の上、路上にいた男女を襲って強盗致傷をしたというものである。被告人は、共謀と実行行為のいずれをも否認し、他方、捜査段階において被告人との共犯関係を認める内容の共犯者の検面調書が存在する。ところが、公判廷で、共犯者は被告人との共犯関係を否認し、そのため321条1項2号の検面調書(2号書面)の採否が問題になるという筋書きである。

  2. 問題の所在  現在の否認事件では、検察官立証のカギとなる証人が公判廷で捜査段階と相反する証言をしたときは、検察官から2号書面の証拠調請求がなされる。検察官は、請求に先立ち、証人に対し、公判廷証言が捜査段階の供述と相反すること(相反性)と公判廷証言よりも捜査段階の供述を信用すべき特別の情況の存すること(特信性)を立証するため主尋問を行い、続いて弁護人もこれに対する反対尋問を行う。検察官の証拠調請求に対しては、弁護人も反対の意見を述べ、双方の意見を聴いた上で裁判所が採否を決定する。  ところが、裁判員の参加する法廷では、裁判員はこのような難解なやり取りを全くと言ってよいほど理解できないはずである。裁判員裁判においては、裁判員に審理の内容を十分理解してもらわなければならないのであるから、当然、審理を分かりやすいものに変える必要がある。そもそも、裁判員制度導入にあたり、今以上に公判中心主義を徹底すべきであるところ、検察官が密室で取り調べた作文である検面調書に依拠して事実認定をするのはおかしくはないか。現役の裁判官からも、「公判の証言に加えて供述調書をも認定の資料としなければならない事態は、一般的には、裁判員にとって大きな負担となることが予想され、審理の分かりやすさという観点からすると、そうした事態は、可能な限り回避されるべきものといえよう」との指摘がある(判例タイムズ1188号16頁)。

  3. 模擬裁判での試み  このような問題を踏まえ、弁護人は2号書面の問題について次のような試みをした。
    @ 反対尋問に先立ち、今法廷で何が行われ、今から弁護人が何の目的で反対尋問をするのか、分かりやすく説明しようとした。
    A 2号書面採否の評議には裁判員も参加させるべきである旨を強調した。
    B 裁判官が特信性を認めたとしても、直ちに供述の信用性まで認められたわけではない旨を平易な言葉で説明した。
    C 反対尋問の際には、調書の内容には触れず特信性についてのみ尋問し、2号書面が採用された後、あらためて調書の内容に関する証人尋問を請求した。
    残念ながら、今回は、検察官も裁判所も2号書面について、基本的には従来通りの手続で採用する方針で臨んだため、弁護人の試みは奏功しなかった。そして、あっけなく採用された2号書面が裁判員に与えた影響力はやはり絶大であった(判決は懲役7年)。
    しかし、弁護人を担当した者として、裁判員裁判で従来通りの手続のまま2号書面を採用することは、絶対に容認できない。







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