会報「SOPHIA」 平成18年2月号より

ハンセン病の患者であった人々の人権を回復するために

〜愛知県に対し要望書を提出〜

人権擁護委員会
医療部会 部会長 鈴 木 含 美

  1. ハンセン病問題  ハンセン病問題は、患者、ハンセン病回復者、家族らに対する長期にわたる深刻で広汎な人権侵害です。2001年5月11日に熊本地裁は「らい予防法」違憲国家賠償請求事件について、国が強制隔離政策を維持・継続したことによって極めて深刻な被害を発生させたと認定し、賠償請求を認容しましたが、2003年11月には、熊本県黒川温泉で元患者の宿泊拒否事件が発生し、これを契機に元患者に対する誹謗中傷が集中したことは、未だ差別偏見が根強く残っていることを端的に示しています。また、2005年3月のハンセン病問題検証会議の最終報告書では、「未曾有の人権侵害」が現在も継続していること、その責任は、国はもちろん医療界、法曹界、マスメディアなど多方面にわたると指摘しています。

  2. 日弁連の取り組み  日弁連は、元患者らからの人権救済の申し立てを受けて、2001年6月21日、国に対し、ハンセン病の患者であった人々の人権を回復するために、患者の社会復帰・帰郷についての環境整備や差別偏見の除去など8項目の勧告をしました。そして、日弁連は、この問題に対する取り組みが不十分であったことを反省し、その後、勧告内容の履行状況を調査したところ、熊本地裁判決から4年を経過しても、ハンセン病の患者であった人々の人権が十分に回復されていない現状にあると判断しました。このため、日弁連は、検証会議の最終報告書をふまえ、2005年9月28日付で、国に対し、再度の勧告を行いました。しかし、生活支援相談窓口の設置や差別偏見解消策については、各都道府県においてその実情に合わせた実施が求められるものです。このため、昨年10月、日弁連から各単位会に対し、各地のハンセン病回復者の方々のために、生活支援相談窓口の設置や差別偏見解消策の実施状況を確認し、未設置の自治体に対する速やかな窓口の設置や差別偏見解消策等の充実について要望するよう依頼がなされました。

  3. 愛知県の状況と要望書  愛知県は、「無らい県運動」の発祥の地と言われ、率先して強制隔離政策をすすめた歴史を持ちます。愛知県内に療養所はなく、愛知県出身の患者は、すべて遠方の他県の療養所に入所しました。  これらの歴史をふまえ、愛知県では、入所者の郷土訪問、療養所への地元新聞の送付、療養所訪問、在宅者のための専門医による療養相談、パンフレット配布、パネル展等の啓発事業活動など一定の取り組みが行われています。また、2004年3月には冊子「ハンセン病の記録ーハンセン病と共に偏見差別のない愛知を求めて」をまとめ、県内の各学校等に配布したほか、愛知県のホームページでその全文を見ることができます。しかし、県において、ハンセン病の患者であった人々をすべて把握しているわけではなく、必要な情報が届いているか疑問な点もあります。  そこで、ハンセン病の患者であった人々の相談窓口について広報を周知徹底することや、差別偏見の解消のためいっそう充実した施策をとるよう、愛知県に対し、要望書を提出するに至りました。元患者の高齢化がすすむ中、医療や生活支援は不可欠である上、差別偏見の解消のためには、今後とも地道な取り組みが必要です。







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