会報「SOPHIA」 平成17年9月号より

憲法問題シリーズ第2回

憲法を変えるための「国民投票法」案 間もなく制定!?

〜このままでは「民は由らしむべし、知らしむべからず」の法律に

憲法問題特別委員会

委員 田 巻 紘 子
 


  1.  はじめに
    遅くとも来年の通常国会で国民投票法を制定させようという動きが顕わになっています。
    「国民投票に関する単なる手続法なんだから、誰が作ってもそんなに違いはないでしょう。作ってもいいのでは?」と、最初は私も思っていました。
     ところが、現在、与党が提出を考えている法案骨子(昨年12月発表)を見てびっくりしました。こんな国民投票法が成立してしまったら、私たちは投票を行う発議案の内容すら、十分に知らされないうちに投票しなくてはならない可能性があるのです。

  2.  与党案の“危険”な内容
    与党案についてはまだ条文化された法案はありませんので、与党が昨年12月に発表した骨子と、与党が依拠する憲法調査推進議員連盟の条文案(2001年11月)をもとにご紹介します。

    • 改正発議からたった30日で投票可能。
      与党案は、国会が憲法改正案を発議した日から「30日以後90日以内」に国民投票を実施するとの案になっています。
      任期が決められている国会議員等の選挙とは異なり、憲法改正をしなければならない期限というものはありません。国の最高規範を変えるというときに果たして90日でも十分な議論ができるか、という問題があると思いますが、30日では議論を尽くすことは不可能ではないでしょうか?

    • 改正案について議論はできない?
      現代の日本ではマスメディアの影響が非常に大きくなっていますが、与党案では「新聞や雑誌の虚偽報道など禁止」ということが盛り込まれています。この点について、議連案では「…国民投票に関する報道及び評論において、虚偽の事項を記載し、又は事実をゆがめて記載する等…」という表現が用いられていますが、非常に曖昧な表現で包括的に規制しようとする姿勢がおわかり頂けるかと思います。
      また、公務員についても「その地位を利用して」国民投票運動ができない、と包括的な規制がされており、教育者も同様です。
      特定政党や特定候補者を当選させるための選挙ではないのに、こんなに表現の自由を縛る必要があるでしょうか?

    • 改正案一括の投票を迫られるおそれ。
      与党案では、国民投票の際、改正案を一括して賛否を問うか、個別条項毎に賛否を問うかどうかは、発議の際に別途定めることとされています。
      ですが、主権者として個別条項毎にそれぞれ賛否両論の意見があるのは当然のことです。個別条項毎に賛否を問う(相互矛盾が生じる恐れのある条項同士は一括する)ことを、国民投票法案で定めておくべきではないでしょうか。

  3.  今後の動きにご注目ください
     憲法改正の是非をめぐる論議はさておき、憲法を改正するための国民投票法の手続がこれほどまでに主権者の手足を縛るものであってはならない、という点は一致することができるのではないでしょうか。
     とんでもない法律になってしまわないよう、今後の動きにご注目ください。

*本稿では、与党案の一部しか論じることができておりません。日弁連が今年2月に発表した意見書を日弁連HPにて、是非ごらんください。






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