会報「SOPHIA」 平成17年9月号より

子どもの事件の現場から(40)

少年法の理念はどこへ行く……

少年法等の一部を改正する法律案の問題点

子どもの権利特別委員会

委員 竹 内 景 子
 


 政府が2005年3月1日に国会に提出した「少年法等の一部を改正する法律案」は、8月8日の衆議院解散で廃案となった。同法案は、現行少年法の少年に対する教育的・福祉的対応を大きく後退させるものであり、当弁護士会も7月21日付でこれに反対する会長声明を出している。しかし、同法案が今後国会に再提出されることは必至である。そこで、改めて同法案の問題点を整理してみようと思う。

  1.  少年事件が低年齢化・凶悪化……誤りです
    少年の厳罰化を2000年改正からさらに推し進めようとする今回の法案は、「触法少年(14歳未満の少年)による凶悪重大事件の発生など少年非行が深刻な状況にあること」をその提出理由としている。しかし、統計的にみればそのような事実はない。長崎事件や佐世保事件等における報道のあり方や、大人の側の漠然とした不安感が、客観的根拠を欠く誤った認識を引き起こしているのである。今一度、立法事実の有無を冷静に検討する必要がある。

  2.  触法少年の事件に警察の調査権限……それは児童相談所(福祉)の仕事です
    触法少年、特に重大な事件を犯した触法少年の多くは被虐待体験を含む複雑な成育歴を有しており、少年自身が傷つけられてきた経験を有していることが多い。このような少年には、福祉的・教育的観点から非行の背景にある複雑な事情を調査し、ケアすることこそが必要である。警察の取調では、福祉的視点がないばかりでなく、表現能力が未熟で、被暗示性、迎合性等の心理的特性を持つ低年齢の少年から虚偽自白を引き出すおそれが高く、かえって事実解明は遠のいてしまうのである。

  3.  ぐ犯の「疑い」のある者に警察の調査権限……全ての子どもを監視するつもり?
    将来、法を犯す行為をする「おそれ」の「疑い」ある少年を調査対象にするということは、事実上全ての子どもに対して警察による監視体制を敷くことに、法的根拠を与えることになりかねない。警察が調査の名の下に子どもを抱え込めば、本来その子どもにとって必要だった福祉的対応がなされないまま、問題はより深刻化してしまう。

  4.  少年院収容可能年齢の下限撤廃
    ……小学生も少年院に入れてしまうの?
    低年齢で非行を犯した少年ほど、とりわけ重大な事件を犯した少年ほど、複雑な成育歴を有していることが多い。このような子どもには、まず温かい家庭的な雰囲気の児童自立支援施設等で「育ち直し」の機会を与える必要がある。一人の人格として大切にされた経験すらない子どもに、対人関係を前提とした規範意識を育てる少年院教育は相応しくない。

  5.  保護観察中の遵守事項違反者は少年院等へ……「二重の危険」を冒してまで威嚇するとは
    保護観察処分後、新たな非行事実がないのに少年院送致処分とすることは、許されない。また、保護観察に威嚇的手段を持ち込めば、少年の自主的な努力による立ち直りは阻害されてしまう。保護司が、少年と信頼関係を築き、少年の試行錯誤を見守りながら、少年の更生を援助してきたことを忘れてはならない。

  6.  さて、これからどうする……現場から声を!
    少年犯罪激増の1948年に「少年の福祉をはかり、その健全な育成を期そう」として少年法が誕生したことを今もう一度思い出したい。福祉関係者をはじめとする「子どもの事件の現場」にいる者は、今までの実績に自信を持って、声をあげて欲しい。その声を国会に反映させることはきっとできるはずである。





行事案内とおしらせ 意見表明