会報「SOPHIA」 平成17年9月号より

第1回実務家教員意見交換会(9月8日開催)

ロースクールにおいて民事実務をどう教えるか

会員(名城大学法科大学院教員)宮 島 元 子
 

 法科大学院がスタートして早くも1年半が過ぎた。理論と実務の架橋を目指すとの理念のもとに各大学院で実践的な法曹教育への取り組みが行われているが、先例のないところから創り上げていく作業だけに、教材の選定・作成から始まり、どのような内容の授業をどのような方法で行うか、未だ試行錯誤を重ねている段階にあるといえる。

 このような状況下、法科大学院検討特別委員会の企画・主催により各大学院の実務家教員が参加して第1回実務家教員意見交換会が開催された。今回は民事実務科目に関する意見交換ということで、名古屋大学(藤田哲会員)、南山大学(木下芳宣会員)、愛知大学(・橋譲二会員)の3校の各大学院の教員から実際に行なわれている授業の内容とその実態について報告がなされた。

 名古屋大学からは、裁判官、弁護士及び研究者教員の3名の合同で担当されている「民事実務基礎」(未修コース2年・既修コース1年後期)の授業について報告がなされた。民事訴訟による紛争解決手続を講義と演習を通して学ぶもので、学生にはかなりの事前課題や起案が課せられているようである。

 南山大学からは、「民事法演習」(未修コース2年・既修コース1年前期)について報告された。これも民事訴訟による紛争解決手続を学ぶもので、要件事実、主張整理、事実認定等について、起案、討議、模擬裁判的講義などを通して理解する内容になっている。実際に授業で使用している不動産売買契約に関る事案の教材も紹介されたが、かなり詳細で分量も多く、教材作りにもかなりの時間と労力が費やされていることが窺われた。

 愛知大学からも、弁護士2名・裁判官1名による「民事訴訟実務の基礎」の講座(未修コース2年・既修コース1年後期)について紹介がなされた。やはり要件事実、主張整理、事実認定など、訴訟手続において実務上必要な能力を習得させる内容となっている。

 いずれの大学院でも、従来の司法研修所の前期修習の内容に近い、極めて実践的な内容の授業が行われていることが窺える。また、裁判官の教員は、事前打合せの際に、毎回20〜30頁に及ぶ詳細な資料を用意してくるとの話もあり、授業に対する熱心な取組み振りが感じられた。

 一方、受講者である学生にとっては、事前に多くの課題が出されて相当の予習が必要であり、かなり負担が大きいであろうと推測される。1週間に他の科目を少なくとも7〜8科目程度は受講するとなると、予習のみに追われ、知識を定着させる時間がとれないのではないかとの懸念も浮かぶ。また、法科大学院で初めて法律を学ぶ純粋未修者は、憲・民・刑・商・民訴・刑訴・行政法の司法試験必須科目の概要を1年余りで詰め込み、2年次からは要件事実論や書面作成、訴訟技術まで習得しなければならないことになるが、自分の受験時代を振り返ってみても、こうしたスピードで、平均的学生が果たして十分消化しきれるのか、正直なところ不安も感ずる。

 いずれにしても、3年(又は2年)という限られた期間内で真に実のある教育を実施していくためには、多くの課題があるといわざるを得ないところであるが、今回のような企画によって、他校の授業の様子を知り、また他の実務家教員の意見を聞くことができたのは大変参考になった。このような機会を設けていただいたことに感謝したい。






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