会報「SOPHIA」 平成17年9月号より

「裁判員裁判について考える」

−名古屋大学における裁判員模擬裁判・パネルディスカッションを傍聴して−

会 員 園 田   理
 

 名大主催の裁判員模擬裁判・パネルディスカッションが、9月23日午後、一般公開で行われた。模擬裁判自体は自動音声感知システムなど最新鋭のIT機器が導入された模擬法廷で行われ、その映像がインターネットを経由してリアルタイムで傍聴者のいる講義室内のスクリーンに映し出された。


 模擬裁判の裁判官、検察官、弁護人役をそれぞれ名古屋地裁、名古屋地検、当会の法曹三者が務め(当会からは北條政郎会員と足立敬太会員が参加)、パネラーも、名古屋地裁の柴田秀樹判事、名古屋地検の平山龍徹検事、当会の北條会員が務めた。

〈13:15〜15:00 裁判員模擬裁判〉


 事案は、被告人Aが飲食店内で飲酒中、居合わせた客Vと些細なことで喧嘩となり、Vより店外で一方的暴行を受けた後、一旦帰宅し刺身包丁を持ち出して上記店舗に戻り、同店舗前で殺意をもってVの腹部を所携の刺身包丁で突き刺すなどし、腹部刺創等の傷害を負わせたという殺人未遂被告事件。


 Aは、「刺身包丁を持ち出したのはVを脅して謝らせるつもりからだったが、もみ合いの中でVに刺さってしまった。」と供述。AがVの腹部を意図的に突き刺したか、Aに殺意があったかが争点となった。

 時間の関係から、冒頭陳述と争いのない点に関する証拠調べは省略され、Vの証人尋問、飲食店経営者Kの証人尋問、被告人質問のみが行われた。


 Kが、Vから一方的暴行を受けた後にAが「お前ぶっ殺してやる!」などと言っていたことや、事件直後にAが「腹が立ったから刺した。」などと述べていたことを証言した時は(証言前半部分はVの証言とも符合)、弁護人的視点で見ていた私も『あーぁ。これはいかんな。』とすっかり落胆してしまった(今思うと短絡的だったが)。


 しかし、北條会員の弁論で、V供述の問題点やK供述から直ちにAの殺意を導き出すことの危険性がわかりやすく説明されると、『なるほど。そうだ。』とすっかり気を取り直した(今思うとこれまた短絡的だったが)。〈15:15〜17:00 パネルディスカッション〉


 パネラー等の発言から、殺意が認められてもやむなしの事案だというのが法曹三者ほぼ共通の理解だったようである。しかし、北條会員の弁論が奏功したのか、一般市民の感覚と法曹三者のそれが乖離しているのか、模擬裁判傍聴直後に傍聴者になされたアンケート回答結果は下記のとおりで、1時間半にわたる評議によっても模擬裁判員6名(名大 関係者)は、殺意肯定2名、否定2名、わからな

い2名の状態だった。

  •  Aが意図的に刺した………54名(49%)
  •  もみ合いで刺さった………44名(40%)
  •  わからない    ………12名(11%)
  •  Aに殺意があった ………44名(40%)
  •  Aに殺意はなかった………47名(42%)
  •  わからない    ………20名(18%)


 柴田判事の発言から、この事案で1時間半評議して争点について結論が出なかった点に不満が残った様子が窺われたが、評議を主宰した伊東判事が「言いたいことは何でもお話ください」と裁判員からの自由な発言を促した姿勢は評価されるべきと思った。

写真提供 名古屋大学。






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