【特集】刑事拘禁制度大改革〜100年前の監獄法が変わる〜
代用監獄の実態調査の結果
刑事処遇に関する特別委員会
委員 平 林 拓 也
1 約100年ぶりに監獄法が改正され、2005年5月18日、「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」が成立したが、未決拘禁者及び死刑確定者(以下「未決拘禁者等」という)の処遇については、現行監獄法のままとされた。そして、代用監獄問題を含む未決拘禁者等の処遇の在り方については、日弁連、法務省、警察庁の三者協議で議論がなされているところである。日弁連は、代用監獄の恒久化に反対する方針であるが、そのためには、代用監獄制度の弊害について、具体的な事例をあげて訴えていく必要がある。そこで、本稿では、以前当会で会員に対して協力をお願いした代用監獄の実態調査の結果を紹介する。
2 実態調査をした経緯
平成15年12月に発表された「行刑改革会議」の提言を受けて、法務省は、未決拘禁者処遇等を含む監獄法全面改正案を提出するとの意向を明らかにし、警察庁も、留置施設に関する法案を提出するとの意向を明確にした。警察庁は、昭和55年に留置管理部門を捜査部門から分離したことにより、代用監獄の弊害はなくなったと主張している。これに対し、日弁連は、その後も代用監獄の弊害はなくなっていないことを具体的に指摘し、代用監獄は廃止されるべきものであること、これを恒久化する立法は認められないことを訴えていく方針である。このような状況を受けて、日弁連から各単位会宛に、「代用監獄の弊害事例(1990年以降、特に最近の例)」を収集し、日弁連に報告してもらいたい旨の依頼があった。そこで、当会においても、平成16年8月12日付で、全会員に対し、「代用監獄の実態調査協力のお願い」と題する代用監獄の実態調査を実施した。
3 実態調査の質問内容
実態調査では、留置場所、時期、被疑者の性別と年齢、罪名及び否認事件の有無のほか、・暴行・暴言、・自白の強要、・長時間・夜間の取調、・弁護人との接見、・弁護人との信書の発受、・弁護権への攻撃、・一般の面会・信書の発受・差入、・食事・運動・生活環境、・医療、・その他の各項目毎に、代用監獄の弊害があった場合の事例について具体的にあげてもらった。
また、上記項目以外にも、代用監獄問題についての意見も質問内容とした。
4 実態調査の回答の概要
回答があったのは全部で16件で、回答のあった事例の時期は平成14年から平成16年までであり、うち11件が全部あるいは一部否認事件であった。代用監獄の弊害の項目毎では、・暴行、暴言があったとするものが8件、・自白の強要があったとするものが7件、・長時間、夜間の取調があったとするものが5件、・弁護人との接見に関するものが3件、・弁護人との信書の発受に関するものが3件、・弁護権への攻撃があったとするものが6件、・一般の面会、信書の発受、差入に関するものが4件、・食事、運動、生活環境に関するものが1件、・医療に関するものが5件、・その他2件であった。
5 代用監獄の弊害事例の内容
弊害事例があったとする各項目毎の具体的な内容は次のとおりである。
暴行については、顔面を2発殴られて口の端が切れ出血した、突き飛ばされた、手錠をつけたまま取調べを受けた、頭を叩かれた、机を体に押し付けられたといった直接的な暴行のほか、机を叩くといった間接的なものがあった。暴言についても、検察官から暴言があったとするもの、取調べ以外のときに留置場の応援にきた取調担当の刑事から挨拶しても無視されたり、「少年院は長いでしっかり考えとけ」と他の被疑者に聞こえるように言われたといったものがあった。
自白の強要としては、怒鳴ったり甘言を使って自白を強要したとするもの、本命の余罪を立件しないかわりに本罪を自白させたとするもの、認めないと不利になると言われたとするもの、検事から「いつまで不合理なことを…」と怒鳴られたとするもの、否認しても調書を録取せず同じことを尋問し続けたとするもの、記憶が曖昧だと嘘と決め付けたとするものがあった。
長時間、夜間の取調べとしては、別件逮捕勾留により連日夜9時過ぎまで、ときには夜中まで取調べが及ぶことがあったとするもの、任意同行後に数時間の取調べにも自白しなかったため逮捕され、その後の継続した取調べで自白したとするもの、朝・昼・夜の取調べが常態化しているとするものがあった。
弁護人との接見については、30分程取調べを優先したいとの申し出があったとするもの、接見室が狭いので待たされたとするものがあった。
弁護人との信書の発受については、外国語の翻訳料を支払わない限り発信させないとの運用があったとするもの、自殺の傾向があり筆記具を使わせてもらえない時期があったとするもの、6項目の暴行を手紙に書いたところ発信を拒否されたとするものがあった。
弁護権への攻撃については、弁護人が役に立たないと言われたとするもの、被疑者の母親にどうして弁護士をつけたかを聞いたもの、弁護人のことを「金のため」「売名行為」「ろくな弁護士ではない」と中傷したとするもの、調書への署名押印の拒否の勧めなどの接見内容が調書化されて公判で乙号証として証拠調請求されたとするもの、弁護人を選任しないよう執拗に被疑者に告知しその家族へも弁護人を選任しないよう言ったとするものがあった。
一般の面会、信書の発受、差入については、被疑者の両親が面会を希望したところ予約制で1週間程度先しか面会時間の指定が受けられなかったとするもの、被疑者にノートを差し入れたところ被疑者が取調べの刑事から「おまえ何書くつもりだ」などと聞かれた(弁護人が被疑者に差し入れた物を取調官が知っていた)とするもの、接見禁止がつけられたするものがあった。・食事、運動、生活環境については、被疑者より日本の入浴はなじめないとの苦情があったとするものがあった。
医療に関しては、医師に十分診てもらえないとするもの、弁護人から留置係に医師に診せてほしいと言ったところ後で被疑者が取調担当刑事から弁護人に頼んだことを非難がましく言われたとするもの、体調不良を訴えても百草丸らしきものを飲ませただけであったとするものがあった。・その他は、公判への押送に際し捜査担当刑事が加わっていたとするものがあった。
6 実態調査の感想
実態調査では、代用監獄について、面会時間の制限を受けない、予約が可能という点で弁護士には都合がよいとの意見もあったが、上記の弊害事例からは問題であるとの意見が多かった。
代用監獄の実態としてこのような弊害事例がある以上、代用監獄の弊害はなくなったとする警察庁の主張は全く根拠のないものであり、弁護士会としては、今後の三者協議に向け、できる限り多くの弊害事例を集めて警察庁や法務省へ訴えて行く必要があり、そのためには我々が代用監獄の弊害に目を光らせておかなければならない。
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