会報「SOPHIA」 平成17年8月号より

【特集】刑事拘禁制度大改革〜100年前の監獄法が変わる〜
未決拘禁者等処遇法案の立法動向 〜情勢と問題点〜

刑事処遇に関する特別委員会
委員 成 瀬 伸 子

1、未決拘禁制度改革に向けて

 平成17年5月18日に成立した「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」は、受刑者処遇等に関する監獄法の規定が改正されたもので、未決拘禁者及び死刑確定者については、まだ、従前の監獄法が「刑事施設ニ於ケル刑事被告人ノ収容等ニ関スル法律」と改称され、適用される。したがって、現状は、処遇において一定の改善が図られた受刑者と未だ従前のままの未決拘禁者との間で、法的保障の格差が生じている。  そこで、早期に未決拘禁者等処遇法の成立が必要となるが、平成18年度通常国会への同法案提出が予定されており、そのために、平成17年6月28日開催の第5回法務省・警察庁・日弁連の三者協議会から未決拘禁制度改革に向けて、本格的協議がスタートした。  上記三者協議会では、去る5月27日開催された日弁連定期総会において採択された「未決拘禁制度の抜本的改革と代用監獄の廃止を求める決議」について、法務省・警察庁からも意見・質問がなされた。とりわけ、代用監獄については、日弁連と法務省・警察庁との意見の相違が明確になっている。以下日弁連決議において提案された主な点及びそれに対する上記三者協議会の時点での法務省等の意見を紹介する。

2、未決拘禁制度の抜本的改革

(1) 弁護人の接見交通権を十分に保障する方策として、夜間や休日などの弁護人の接見を確保する。弁護人以外の者との外部交通の権利を拡充するため、一般面会においても夜間や休日の面会を認める。 (法務省)限られた拘置所の人的物的体制の中でこれを無条件で実現することは不可能である。弁護人接見については、時間外の接見を認める条件等(連日開廷の事件等に限定して認めるのか、事前予約制とするのかなど)を具体的に検討する必要がある。 (警察庁)警察としては、極めて限られた体制の中ではあるが、従前より配慮しており、特に休日においても平日と変わらない待ち時間で接見機会を提供してきた。

(2) 接見・面会において電話(テレビ電話を含む)などの使用を認める。電話については、例えば、弁護士会内に設けた電話室から刑事施設の面会室(あるいは電話室)を電話でつなぎ、連絡する方法が考えられる。 (法務省)電話の相手方が弁護人等であることの確認・担保、秘密に電話を使用できる場所・設備の確保、電話取り次ぎ業務の施設側の負担などの問題があり、慎重に検討する必要がある。

(3) 弁護人との信書も検閲してはならない。
(法務省)未決拘禁者から弁護人への信書には、収容目的及び刑事施設の規律秩序を阻害するおそれの存するものが多く、慎重な検討が必要であるが、弁護人から未決拘禁者への信書は当該信書かどうかの確認に必要な限度で足りる。
(4) 冷暖房については、すべての拘置所に設置し、稼働させるべきである。
(法務省)冷房設備については、拘置所の所在地、予算、国民感情等を総合勘案して検討すべき問題であり、直ちに導入の考えはない。

(5) 未決拘禁者が希望する場合には、労働と教育の機会を保障しなければならない。
(法務省)未決拘禁者の収容期間も不明確であり、地位も流動的であり、実際上も困難である。

3、代用監獄の廃止

(1) 代用監獄は廃止すべきである。

(法務省)短期間に制限されている身柄拘束期間中のち密な捜査とそれに裏付けられた極めて厳格な起訴・不起訴の決定をするためには、警察署の留置場に被疑者を勾留することが現実的な方法であり、代用監獄を容易に廃止することはできない。 (警察庁)警察における捜査部門と留置部門との分離は、組織上も規則上も明確にされており、それぞれの立場から適正かつ厳格に業務を遂行しているので、代用監獄の弊害はない。現在の我が国の刑事司法制度のもとにおいて、犯罪捜査を適正・迅速に遂行するために必要な被疑者の勾留場所に関する条件は、捜査機関と近接した場所にあること、取調室等の設備が十分に整備されていることであり、これらの条件を充たす施設は、現状においては留置場だけであり、代用監獄を廃止することは困難である。

(2) 代用監獄を廃止する方法として、全国に拘置所を新増設する、警察署に付属しない独立の大型留置場は法務省所管の拘置所とする、警察留置場の所管を警察庁から法務省に移管し、勤務する職員を警察職員から法務省職員に移管するなどがある。 (法務省)拘置所を新増設する場合、膨大な予算と職員の増員が必要であり、市街地での用地取得も極めて困難であり、現実問題として不可能である。警察の留置場は、被逮捕者の留置のため必要な施設として維持する必要がある。 (警察庁)留置場は、都道府県が独自の財源で設置した施設である上、単なる代用監獄ではなく、被逮捕者を留置する施設でもある。したがって、警察留置場を法務省に移管することはできない。

(3) 代用監獄廃止までの間の弊害除去・軽減の方法として、代用として認められる警察留置場は、保安室(保護室)を備え、提携医師を 確保したものに限定し、懲罰は禁止し、防声具などの戒具は使用しない、医療を受ける権利を保障する、取調の可視化、取調時間の制 限、外部市民による視察制度の創設、第三者機関に対する苦情の申出や不服申立制度の創設、留置場管理者の権限行使に対し準抗 告等司法救済手続の創設、一定の未決拘禁者(否認事件、少年、女子)の拘置所・少年鑑別所への収容の義務付け、拘置所への移 管請求権などを認める。 (法務省)代用監獄は、被疑者取調べ、引き当たり、面通しなどの捜査を迅速かつ適正に行うことに役だっているばかりでなく、弁護人 等関係者の利益の点において資するところが少なくない。 (警察庁)保安室はすべての留置場にはないが、嘱託医は確保されている。防声具は、保安室のない場合に大声を発する者に使用す る必要性がある。医療は十分配慮した対応をしている。留置場は、都道府県公安委員会が視察を行い、適切に管理を行っている。警察 法に基づき第三者機関である都道府県公安委員会に対する苦情申出制度がある。不服申立については上記公安委員会の管理を受け ており、第三者機関を設ける必要性はない。準抗告も代用監獄収容の未決拘禁者に対する行政措置にのみ認める必要性はない。

4、法案の立法動向

 未決拘禁制度の諸改革については、日弁連と法務省・警察庁とも、既に立法化された受刑者処遇の改善点も見据え、未決拘禁者に もその処遇を改善する必要性があることは共通認識であり、今後も十分協議を重ねていけば、法案に向けた合意を得られる可能性が あると思われる。しかし、代用監獄の廃止を前提とした日弁連の決議に対しては、現状法務省等との間で、大きな意見の違いが見受け られ、法案に向けて、まだまだ前途多難な状況であることに変わりない。今後も引き続き開催される三者協議会の動向を注目していき たい。






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