会報「SOPHIA」 平成17年8月号より

【特集】刑事拘禁制度大改革〜100年前の監獄法が変わる〜
「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」について

刑事処遇に関する特別委員会
委員 加 藤 美 代

はじめに

 100年ぶりに監獄法が改正され、今回の制定された「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」(受刑者処遇法とします。)が制定されました。受刑者処遇法は、監獄法のうち、施設に関する部分と受刑者の処遇に関する部分についてのみを対象とし、未決拘禁者に関する部分の改正は含まれていません。  従って、代用監獄制度を含む未決拘禁者に関しては、未決拘禁者についての法改正が行われるまで、その内容は全く変わっていません。

1 刑事施設委員会の設置(7条〜10条)

 受刑者処遇法は、職員の職務の適性を図るために、第三者機関である刑事施設視察委員会を設置しました。  その設置の目的は、第1に行刑運営の透明性を確保し、第2に適正な行刑施設の運営を援助し、第3に行刑施設と地域社会との連帯を深めることにあります。

2 受刑者処遇の原則と矯正処遇

 受刑者処遇法は、「受刑者等の人権を尊重しつつ、その者の状況に応じた適切な処遇を行うことを目的とする」と規定して、受刑者の「個別処遇の原則」を明らかにし、さらに、14条で、受刑者の改善更生・社会復帰に向けた処遇を図るとしました。  そして、・作業(71条〜81条)、・改善指導(82条)、・教科指導(83条)を規定し、改善指導・教科指導を受けることを受刑者の義務としました。また、職業訓練を作業として実施することになりました(74条1項)。  今回の改正では、社会復帰を目指した矯正教育も重視されることになりました。そして、受刑から円滑な社会復帰を図るために、一定の条件の下で職員の同行なしでの、外部通勤作業(75条)、外出・外泊制度(85条〜87条)が認められました。

3 受刑者の生活

(1)生活水準(20条)、運動(34条)

受刑者の生活は、第20条により「国民生活の実情等を勘案し、受刑者としての地位に照らして、適正」と認められることが求められました。    受刑者の運動は、平日は毎日、できる限り戸外での運動を行う機会を与えなければならないとされました。

(2)医療(33条〜42条)

第33条は、「社会一般の保健衛生及び医療の水準に照らし適切な保健衛生上及び医療上の措置を高ずる」と規定し、一般の医療機関に求められる水準の医療上の措置を講じなければならないことを明記しました。    しかし、健康保険制度の適用などは見送られました。

4 外部交通

まず、適正な外部交通は、受刑者の改善更生及び円滑な社会復帰のために必要であることが明らかにされました(88条)。

(1)面会(89条〜92条)

監獄法では親族だけでしたが、親族以外にも拡大されました。    重大な利害にかかる用務処理のために必要な者や、受刑者の改善更生に資する者、また場合によっては友人も面会が認められるようになりました。

(2)信書(93条〜100条)

犯罪性のある者をのぞき、基本的に信書の発受が認められました。発受の回数も月4通の最低保障回数が定められました。

(3)電話(101条、102条)

電話による通信も新たに認められました。開放的処遇を受けている場合において改善更生・社会復帰に資するとき等に認められます。

5 不服申立制度の整備

1、審査の申請及び再度の審査の申請の制度(112条〜117条) 1、事実の申告の制度(118条から120条) 3、苦情の申出の制度 (121条から123条)が定められ、受刑者の不服申立の方法が拡大されました。

(1)審査の申請及び再度の審査の申請

これらは、処分性のある一定の行為を対象とします。

(2)事実の申告

これは、刑務官による事故に対する一定の行為を対象とします。

(3)苦情の申出の制度

法務大臣、刑事施設の長に対して申し出ることができ、対象の限定はありません。    いずれの制度も秘密が守られ、不利益な取り扱いが禁じられています。

7 警察留置場に関する規定

 受刑者処遇法は、警察留置場に関する規定を設けています。これは、受刑者処遇法が刑事施設に収容される者を明記し、そのものを 収容し、処遇を行う施設を刑事施設と定義しました(2条)。その結果、受刑者のいる警察留置場も刑事施設となり、受刑者処遇法が適 用されることになりました。しかし、刑務所や拘置所と比べ、警察留置場では、設置管理者も設備も異なるため、その範囲で規定を整備 する必要が生じ、必要な範囲で規定が設けられました。  従って、受刑者処遇法の警察留置場に関する規定は、受刑者に関するだけの規定であり、はじめにも述べましたように警察留置場を 代用監獄として規定したものではありません。  未決拘留者に対する処遇に関しては、現在、監獄法の残された部分として新しく法の制定をめざし、議論・検討されているところです。 まとめ  名古屋刑務所の一連の事件を契機に国会でも論議され、行刑改革会議の提言を受け、受刑者処遇法が制定されました。様々規定が 設けられ、受刑者の処遇について前進がみられました。しかし、政令・省令に委ねられた部分も多く、これまでの議論が反映されるよう にしていかなければなりません。  また、刑事施設委員会の委員の選任は法務大臣に委ねられており、今後どのような委員が選任されていくのかも注視する必要があり ます。  何よりも、今後の受刑者処遇法がどのように運用されるかを注視していくことが肝心です。






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