会報「SOPHIA」 平成17年8月号より

子どもの事件の現場から 
動向視察〜少年院送致後の少年との関わり

福岡地方・家庭裁判所
判事 山 城   司

1 少年院という一般社会から離れた施設に送致された少年が、その処分をどの様に受け止め、どの様に変わるのか、少年事件に関わった全ての人が気になることです。  私が動向視察で会った少年たちは、例外なく、表情が穏やかになり、規則正しい生活でふっくらと健康的に変わっていました。更生へ前向きになっている少年たちの態度には、こちらが却って励まされるものです。動向視察は、少年と面会するだけでなく、少年院での教育・処遇に直接触れ、授業参観や実習に一緒に参加することもあります。

2 ある少年院には、登山の行事がありました。退院間近で、生活態度に問題のない少年が登山メンバーに選ばれ、選ばれた少年を送致した裁判所にも参加が呼び掛けられます。私は、少年院送致した少年にはできるだけ会いに行くことにしていたので、動向視察も兼ねて、喜んで参加することにしました。また、この時、登山メンバーに選ばれていた、私が送致した少年には、調査時、審判時の保護者の態度から、少年院にいる間、誰の面会もないかもしれないと思ったのも、参加を決めた一つの理由でした。

 少年たちにとって、外部の大人が自分を訪ねて来るということは、嬉しく、他の少年に対しても誇らしげに感じる出来事のようです。逆に、保護者の面会すらないと、辛く寂しく、日々の生活ばかりか、社会復帰についても、不安で一杯になるようです。  ところで、この登山に参加できる少年の数は限られるので、余りに前に参加メンバーが分かると、少年たちが動揺するため、その前日に、参加メンバーが発表されます。

 私と調査官は、登山参加のため、少年院に出向いたのですが、私が送致した少年は、登山前日の朝に規律違反をしてしまい、自分がメンバーに選ばれていたことも知らないまま、謹慎処分を受け、メンバーからも外されてしまいました。

 送致した少年は不参加ながら、私たちは、滅多にない機会なので、初めて会う少年たちと山を登りました。特に印象に残っている姿は、少年たちが、登山口までのバスの中、外の風景を一心に見続けていたこと、登山終了後、一緒にお風呂に入ったときに、気持ちよさそうに手足を思いっきり伸ばしていたことです。また、教官と少年たちとの信頼関係も感じることができました。

3 少年院の面接時間の関係で、登山当日には送致した少年に会えなかったので、予定を変更して、翌朝、少年院に出向きました。ラジオ体操と朝礼に参加した後面会が実現しました。予想通り、少年には、今まで誰の面会もありませんでした。彼は、私たちの顔を見て喜び、そして、すぐにぼろぼろと泣き出しました。その姿を見て、胸が締め付けられるようでした。彼は、堰を切ったように、近況、今後の不安と希望を話しました。私たちは、彼の変化を如実に感じました。彼は、一通り自分の話を終えると、ふと我に返ったのか、「どうしてここにいるの?」と問い掛けてきました。登山には触れず、「夏休みだから、会いに来たんだよ」と告げました。

4 事件が終結すれば、裁判官は、なかなかその後の行方を知ることができません。しかし、少年事件には、裁判官が自ら積極的に動ける動向視察の制度があります。付添人も、少年院での面会、社会復帰後の援助、様々な形で、関わり続けることができます。誰かが自分に関わってくれること、それは、不安定な時期の少年にとって、想像以上に意味のあることのようです。






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