会報「SOPHIA」 平成17年7月号より


子どもの事件の現場から

〜海の家〜

会員 高橋直紹

 「手を合わせて下さい」「合わせましたぁ〜」「いただきまぁ〜すぅ〜」・・・子どもたちの元気な声が揃う、それまで雑然とした雰囲気が嘘のように・・・。
 私は、ここ数年児童養護施設「暁学園」の「海の家」イベントに参加し、子どもたちに遊んでもらっています。今年も、私のほか、3人の弁護士が日間賀島に行って参りました。
 児童養護施設というのは、「保護者のない児童(乳児を除く。但し、安定した生活環境の確保その他の理由により特に必要のある場合には、乳児を含む。・・・)、虐待されている児童その他環境上養護を要する児童を入所させて、これを養護(する)・・・・施設」(児童福祉法第41条)です。そういえば、タイガーマスクに出てくる「ちびっこハウス」も児童養護施設でした。その頃は孤児院のイメージがまだ強かったかも知れません。
 「(児童養護施設の生活というのは)私立学校の寮生活のようなものでしょう」「(児童養護施設で子どもの面倒をみるのは)家庭での子育てに毛の生えた程度でしょう」・・・とんでもない!限られた職員数の中で幼児から高校生まで約50名の生活を維持することは大変なことです。また、児童養護施設に入所する子どもたちの半数以上、広い意味でいえば殆どの子どもたちが守ってくれるべき大人から何らかの虐待を受けた経験を持っています。深い心の傷がまだ癒されず、自尊心を打ち砕かれ、大人に強い不信を持ってしまっていたり、暴力や非行までに至らなくても問題行動を取ってしまったりする子どもたちもいます。このような子どもたちが背負っている個々の荷物に配慮しながら、全体として日々の暮らしを維持しているのですから、職員の皆さんの苦労は大変なものだと思います。
 昼間は海水浴などを楽しんだのですが、夕食後には子どもと職員で話し合いが行われました。万引きを誘う子、それに追従する子、躊躇しながらそのグループから離脱できない子・・・職員の寸劇をもとに、いくつかのグループに分かれて職員と子どもたちで討論するのです。中には、自らがこのような非行経験を持つ子もおり、この年頃特有の複雑な心境を見せながらも職員と話し合う子どもたちを見ていると、少年事件で私たちが向き合う少年たちの姿と妙に重なり合いました。
 楽しい時間はあっという間に過ぎ、私たちは子どもたちにまた来年も来ると約束して宿をあとにしました。
 児童養護施設の子どもたちを描いた漫画があります。曽根富美子「子どもたち!〜きみと響き合う言葉 児童養護施設光学園」(1〜3巻。講談社)です。子どもの事件や少年事件だけではなくても、子どもが絡んだ事件を私たちは取り扱います。子どもたちの生活・成長の場として児童養護施設という場があることを知って頂けるといいなぁと思います(といっても、私もよく分かっている訳ではありませんが)。







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