会報「SOPHIA」 平成17年7月号より

【特集】司法改革のゆくえ(2)裁判員裁判と公判前整理手続

公判前整理手続研修

刑事弁護委員会 委員 金 岡 繁 裕

1.はじめに
この11月から、改正刑訴法に基き公判前整理手続が実施される。刑弁委員会では、今後会内研修等を行っていくに先立ち、委員を対象として、後藤貞人弁護士(大阪弁護士会所属。刑事専門弁護士として二弁の神山啓史弁護士と双璧で著名)をお招きし、去る7月29日に標記研修を行った。

2.公判前整理手続に臨む心構え
公判前整理手続は、裁判員事案においては必要的に実施される。それ故、検察及び裁判所からは、「裁判員を長期間拘束しないためにも争点を絞り込むよう」圧力をかけられることが予想される。
この点について、後藤弁護士は、「乱暴な言い方をすれば」と前置きした上で、「裁判員の迷惑などどうでも良い」、「被告人の権利利益を守ることが最優先であり、争点の絞り込みに付き合う義務はない」と喝破された。
誠に正当な指摘と思う。11月以降、公判前整理手続を担当される弁護士においては、是非この指摘が当たりb3.証拠開示の整備について
(1)後藤弁護士の意見では、確かに捜査側の手持ち証拠の全容が分からず、また、検察官に全証拠が送付されるわけでないという点に改善は見られないものの、「十二分に使える可能性のある制度である」とのことである。

(2)特に類型証拠開示については、類型証拠に該当するとさえ判断されれば、従来入手に非常に苦労した証拠もあっさり開示させられるのであり、ここが勝負所になる。
ことに、膨大な捜査報告書は、「例えば犯人性を争う事案では、犯人絞り込みの過程や、真犯人を逃した状況が如実に浮き出る捜査報告書無しの防御は考えられないように」その開示の可否が事案の死命を決することも稀ではないと思われるため、捜査報告書の6号書面該当性が熾烈に争われることになる。様々な見解があるが、大阪地裁杉田判事論文(判タ1176号)や岡慎一弁護士論文(自由と正義56号7巻)を拠り所に、開示を定着させていきたい。

4.予定主張明示義務について

(1)弁護人に主張予定事実の明示義務が課せられ、制裁として証拠制限の規定が置かれたことの問題性は夙に指摘されている(主張明示義務でも争点明示義務でもなく、予定主張の明示義務であるというのが、後藤弁護士の指摘である)。

(2)この点、後藤弁護士は、「非常に難しい問題であり、考えるたびに見解が揺らぐ」とされながらも、複数の見解を示された上で、「間接事実の範囲では明示義務はないと考えるべきこと」、「冒頭陳述で述べる程度を想定すれば足りるが、アリバイであれば明示義務はあると考える」、「あくまで主張を『予定』していた事実の明示義務であるから、『予定』していなかった事実を追加主張する分には制裁は働かず、且つ、『予定』していたかどうかは純主観的に判断する他ないこと」、「犯人性を争う事案であれば、基本的に『事件全体を争う』という立場が正当である」等という考えを披露された。
報告者自身の見解も定まっていないため、此処では後藤弁護士の指摘を羅列するに止める。

5.争いのない事実をどう扱うか

(1)公判前整理手続においては、争点絞り込み、予定主張明示義務の名分のもと、恰も民事訴訟のように、検察官主張の諸事実に対する認否が求められることになると予想される。

(2)この点について、安易に認否し、争わない事実を積み上げることは、その根拠となる調書への同意に繋がり、ひいては、調書裁判の生き残る余地を認めることになりかねないと、後藤弁護士は述べられた。
裁判員制度を活かす上でも、何としても調書裁判は打破せねばならず、捜査官の作文は徹底的に不同意にしなければならないとの指摘である。

(3)そこで、最近注目されているのが法327条の合意書面の活用である。
従来殆ど利用されず、後藤弁護士の経験上も数例にとどまる合意書面は、検察官・弁護人間における、とを阻止したり裁判員と裁判官の格差を無くしたりすることが可能になるとのことである。

6.その他の参考文献
改正刑訴法コンメンタールとして、日弁連で、立法経緯などを織り込んだ簡単な資料を作成中とのことである。
また、法曹時報57巻では、辻氏によるコンメンタールが連載中とのことである。

7.懇親会
懇親会で後藤弁護士は、刑弁委員らが矢継ぎ早に浴びせる質問の一つ一つに、丁寧且つ的確にお答えくださり、いやが上にも議論は盛り上がりを見せた。
私事ながら、以前京都にいたとき、後藤弁護士の「極悪非道をも弁護する」という講演を拝聴したことがあるが、その時のままを貫かれるお姿は、頼もしいの一言に尽きると感じ入った次第である。







行事案内とおしらせ 意見表明