会報「SOPHIA」 平成17年7月号より

【特集】司法改革のゆくえ(2)裁判員裁判と公判前整理手続

裁判員裁判の実施に向けて

刑事弁護委員会 委員長 細 井 土 夫

1.裁判員制度の導入
裁判員制度は、「刑事訴訟手続において、広く国民一般が、裁判官とともに責任を分担しつつ協働し、裁判内容の決定に主体的、実質的に関与することができる新たな制度を導入すべきである」という方針の下に導入されました(司法制度改革審議会意見書、H13.6.12)。これは「一般国民が、裁判過程に参加し、裁判内容に国民の健全な社会常識がより反映されることによって、国民の司法に対する理解・支持が深まり、司法はより強固な国民的基盤を得ることができる」という高邁な考えに基づいています。
そして、司法制度改革推進本部の中に「裁判員制度・刑事検討会」が設置され各種の検討結果に基づいて、平成15年5月に裁判員法の制定と刑事訴訟法の改正がされました。

2.今回の改革の位置づけ
刑事司法にとって、今回の改革は、戦後の刑事訴訟法制定に次ぐ大改革といえます。
ところで、現行刑訴法自体は、それなりに評価できるものであると言われていますが、その「運用」において、被疑者被告人に付与された権利は機能せず、「人質司法」と呼ばれる状態が現出しています。
裁判員裁判の導入に当たって、現行の刑事司法の運用を当然の前提とし、これに裁判員裁判を接木するのであれば、十分な審理をすることなく「迅速に」、被告人に対し有罪判決(場合によっては死刑判決)を下すための制度として機能する可能性があります。
被告人の権利が十分保障され、充実した審理がなされ、その上で裁判官と裁判員の間で納得できる評議がされ、国民の常識を反映した判決がされる必要があります。そのような運用が確保されない状態で裁判員裁判が実施されたとすれば、それは結局国民の支持を得られない制度となってしまいます。

3.運用改革・法改正の必要性
わが国の刑事司法については、憲法・刑事訴訟法により被告人に与えられている各種権利が確保されるよう「運用改革」がされる必要があり、また捜査の可視化、被告人の処遇改革(監獄法の改正)等の法改正も必要です。公判前整理手続において、十分な証拠開示がされることは、きわめて重要です。
なお、現在のような刑事司法の運用が定着してしまったことについては、総体として十分な弁護活動をしなかった弁護士にも責任の一端があるという説もあります。今後、弁護士・弁護士会として、同じ失敗を繰り返さぬよう、問題の多すぎる現行刑事司法の運用が改善され被告人の権利が十分確保されるようにする必要があります。

4.弁護士・弁護士会の努力
今回、法曹三者が協力して、裁判員模擬裁判を実施しました。詳細は他の論考に譲りますが、弁護士・弁護士会として平成21年の法施行に向けて、法技術のレベルアップ、集中審理への対応体制の確保など各種の準備をしてゆく必要があることを確認しました。それは、弁護士にとって労多くして実り少ないものであるかもしれませんが、これは避けて通ることはできません。
そして、それは、個別の弁護士の努力に任せておくだけでは不十分で、弁護士会全体として対応すべきことが多いように思われます。われわれは、裁判所や検察庁に対抗できるだけの力量を備えられるよう努力してゆかなければなりません。






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