【特集】司法改革のゆくえ(2)裁判員裁判と公判前整理手続
<法曹三者裁判員模擬裁判>
裁判員を体験して
愛知県弁護士会事務局 加藤弓絵・山下義政
平成17年6月30日、7月1日の両日、裁判員制度模擬裁判で裁判員役を担当しました。刑事裁判は大学時代に学んでいましたが、模擬裁判とはいえ手続の実際に関与するのは初めてのことでした。刑事裁判について、私なりに理解を深めることができ、貴重な体験でした。
裁判所での活動は分かりにくいという先入観がありましたが、実際に体験してみると、パワーポイントを使った冒頭陳述など、検察官、弁護人の方の工夫により、事件の概要はとても理解しやすかったと思います。また尋問では、自ら疑問点を直接聞くことにより理解が深まりました。評議も発言しやすい雰囲気のなかで、実際にも様々な意見交換をすることができたのではないか、と考えています。
しかし、模擬裁判とはいえ、人を「裁く」という現実に予想以上の大きなとまどいを感じたのも事実です。何をどう見て、どのように捉え、そして考えればいいのか…嘘なのか、本当なのか、…かなり困難な課題でした。問題点について結論を保留したり、まして放り出したりできず、自分なりの答えを出さなければなりません。自分が体験したわけではない事実について、揺れる気持ちを納得させ、判断をすることに、想像を超えたエネルギーを要しました。そして、裁判官はもちろんのこと、検察官、弁護人の方の労苦や責任の重大さを、少しばかりかもしれませんが、理解できたように思います。
裁判員として刑事手続に参加することは、多くの労力を要することだと思います。その一方で、裁判員を経験することは、裁判に対する理解を深める機会になるのではないかというのが私の率直な感想です。
(加藤弓絵)
冒頭陳述では、検察官の説明が印象に残っています。というのは、丁寧な口調で時間をかけて説明していたからです。一方、弁護人の説明は、やや早口な面があり、話している全ての内容を聞き取ることができませんでした。多くの裁判員は裁判経験が多くないと思われるので、裁判員を裁判に慣れさせるような説明が求められるのではないでしょうか。特に冒頭陳述時は、どんなに時間をかけて説明してもしすぎることはないと思います。裁判員には、ただでさえ心の余裕が無いため、今何が始まったのかをすぐに理解できないからです。さらに、冒頭陳述が理解されるかされないかでは、その後の評議などにおける裁判員の判断に大きく差が出ると私は感じました。もちろん、理解されない側が不利になります。冒頭陳述の出来不出来によっては、裁判員が一方に肩入れしてしまう可能性があり、またその見解を覆すのは困難になるのではないか、そんな印象を受けました。
次に、評議の感想を申し上げます。評議の中で、裁判官の発言には、他の裁判員の方々とは違い、その後の議論の方向を左右するものがあるように私は感じました。つまり、裁判員中心の評議がされていても、裁判官の一言で評議の流れが一変してしまう気がしました。このことは、裁判員制度の中でも問題になっていると思います。裁判官はできる限り自らの発言を控え、裁判員の発言を促していらっしゃいましたが、そのことがかえって裁判官の発言に重みを持たせたようにも感じられました。いずれにしても、裁判官の発言には影響力があり、その影響力を無くすことは到底出来ない、そんな印象を持ちました。
(山下義政)
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