会報「SOPHIA」 平成17年7月号より

【特集】司法改革のゆくえ(2)裁判員裁判と公判前整理手続
<法曹三者裁判員模擬裁判>


裁判官の目から見て


名古屋地方裁判所刑事第3部 裁判官 森 島   聡

 地裁刑事部裁判官を中心とする「裁判員制度検討会」において、各裁判官から、法曹三者模擬裁判の感想が述べられました。

 主な話題は、評議の進行方法でした。以下のような反省点や課題が指摘されました。

(1)裁判員が、どこが問題でどういう議論をしているのか必ずしも分かっていない気がした。どういう事項について評議をしていくのか、予め裁判員に説明し、理解してもらった上で、評議に入ったほうがよかったのではないか。

(2)裁判官の役目としては、議論のリード役として、論点の設定、証拠説明等をもっとしたらよかったかと思う。

(3)議論を積み重ねていく過程で議論の蒸返し発言があった場合、すでに討議済みであると伝えることも必要ではないか。

(4)議論が後戻りしないように確認していくために、パソコン、ホワイトボード等を利用したほうがよいのではないか。 なお、今回の評議では、3月に実施した裁判所内部での模擬裁判、5月の広報用模擬裁判を踏まえ、裁判員が発言しやすく、評議を活発にするために、新たな工夫を試みた点がありました。評議における席位置、評議前のアンケート配付、休憩時の雰囲気作りなどです。席位置は、裁判官が固まるのではなく、裁判員の間に入って話し合うことで、裁判員の意見、言葉になりにくい疑問やわだかまりを拾い上げるのもスムーズになり、裁判員を議論に引き込む点で有効ではないかとの感想がありました。アンケート配付も、質問事項を更に検討する必要はあるものの、他人の意見に左右されない意見を聞くことは良かったのではないかとの意見が出ました。今後も、法曹三者模擬裁判で現れた課題を意識しながら、評議の進行方法について工夫を重ねていくことになると思います。

 評議の前提となる法廷での立証活動については、以下のような意見がありました。

(1)被告人質問では、犯行状況に関する供述調書の内容と実際の犯行時の行動が混在し、裁判員にとっては、相当分かりづらかったのではないか。任意性と罪体を分けたほうが、裁判員には分かりやすかったのではないか。

(2)証人尋問では、反対尋問の意図が分かりにくい点があった。審理においても裁判員に理解させる工夫が足りないと、裁判員がよく分からないまま、長時間の審議を続けなければならなくなってしまう。弁護士に一層、裁判員裁判に対する意識を高めてほしいと感じた。 冒頭陳述・最終弁論のパワーポイント化など、弁護人役の様々な工夫を承知した上で、敢えて率直に、検討会で述べられた感想を書かせていただきました。証拠調べのあり方等に関する更なる検討の切っ掛けにしていただければ幸いです。

 末尾になりましたが、今回の模擬裁判では、裁判員、弁護人、検察官、被告人、証人等の役割を引き受けてくださった弁護士会及び検察庁の方々、模擬裁判の企画・運営に多大なるご尽力をいただいた細井土夫刑事弁護委員長、小川淳弁護士会副会長らを始め、数多くの方々のご協力により、大変有意義な模擬裁判を実現することができました。裁判所で運営に携わった者として、この場を借りて厚くお礼申し上げます。今後も、より良い裁判員裁判の実現のため、法曹三者が協力し、議論を深めていければいいと考えております。







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