会報「SOPHIA」 平成17年6月号より

【特集】司法改革のゆくえ(その1) 法曹養成は、今

特集を組むにあたって

 会報編集委員会

 司法制度改革審議会の意見書を受けて進められてきた司法改革は、昨年末までに司法改革関連の24の法律が成立し、制度設計・立法の段階から実行・制度運用の段階に移行した。
 司法審意見書は、今般の司法改革を「これまで取り組んできた政治改革、行政改革、地方分権推進、規制緩和等の経済構造改革等の諸々の改革を憲法のよって立つ基本理念の1つである『法の支配』の下に有機的に結び合わせようとするものであり、まさに『この国の形』の再構築に関わる一連の諸改革の『最後のかなめ』として位置付けられるべきものである」としている。かかる基本理念の下に設計された各制度の制度目的は、いずれもその妥当性を首肯し得るものであり、制度目的自体に異論を唱える者はそう多くないと思われる。
 しかし、いくら制度目的が適切であっても、その運用が不適切である場合には、当該制度と有機的に関連する他の制度の運用、目的実現を阻害しかねず、ひいては当該制度自体の目的すら実現できないという事態を招くおそれがある。かかる意味において、今般の司法改革により導入された各制度の運用のあり方を絶えず検証していくことは、司法審意見書が示した司法改革の基本理念を実現する上で必要不可欠である。
 また、今後、政治、経済、社会情勢の変化あるいは関連する他制度の運用方法変更などにより、制度が、制度設計当初に予定していた機能を十分に果たせなくなり、運用方法の変更だけでは対処しきれないという事態が生じることも考えられる。そのような場合には、制度自体の見直し(廃止、新制度の設計)を検討せざるを得ない。その意味では、制度の運用のあり方のみならず、制度自体の合理性、他制度との関連性を絶えず評価していく必要があると思われる。

 平成17年6月14日に弁護士会館5階ホールで開催された司法シンポジウム「検証・司法改革−これで司法は良くなるのか−」における広渡清吾東京大学教授の基調講演は、上記検証、評価の必要性を痛切に感じさせるものであった。
 広渡教授は「弁護士法は、・弁護士職をプロフェッションとして承認し、そのプロフェッション団体に高度の自治権を認めている、・弁護士制度を民主主義を動かす重要な制度としている」と指摘した上で、今般の司法改革が弁護士、弁護士会に及ぼす影響、変化について各制度ごとに検証を行ったが、例えば、日本司法支援センターの創設についての「総合法律支援という目的自体は適切であるが、法務省の監督する独立行政法人に雇用され、あるいは契約上の義務を負って弁護士が活動することは、センターの定める『法律事務取扱規程』の運用如何によっては問題を生じうる」などの指摘は、まさに上記検証、評価の必要性を痛感させるものであった。

 会報編集委員会は、今後、司法改革各制度の検証、評価を行うにあたり有用と思われる情報を、適宜、継続して提供していきたいと考えている。その第1弾として、来年4月に法科大学院の第1期生が卒業するなど他制度に比べ運用着手時期が比較的早かった法曹養成制度を取り上げ、本特集を組むこととした。
 上記司法シンポジウム第2部において討論者を務められた山田幸彦会員、打田正俊会員には、法曹養成制度、法曹人口問題を中心に現時点における制度の評価をご執筆頂いた。また、法科大学院実務家教員座談会、同学生覆面座談会(※Web上には掲載していません。)を企画し、法曹養成制度の根幹をなす法科大学院の現状について、忌憚のない意見を述べて頂いた。