会報「SOPHIA」 平成17年5月号より

「第1回死刑事件弁護経験交流会」開催される


人権擁護委員会死刑問題研究部会
委員 夏 目 武 志

 5月12日に日弁連の弁護士会館会議室で第1回死刑事件弁護経験交流会が開催されました。この中で3件の死刑事件の事例につき、担当の弁護人による経験報告がなされました。

1 ケース1
 第1は仙台弁護士会の舟木友比古弁護士(上告審弁護人)による報告です。強盗殺人(被害者2名)・死体遺棄事件で1審死刑、2審で控訴棄却となり、現在最高裁に係属中で、精神鑑定や弁論能力等が問題となっている事件です。1審弁護人が遺族の員面調書数通以外の全ての書証に同意し、責任能力や訴訟能力が争点とされないまま死刑判決が出されました。上告審では被告人から上告取下書が提出されたものの、その後の精神鑑定により、訴訟能力欠如を理由として公判手続停止決定を得た経験が話されました。このケースでは、舟木弁護人の接見時に被告人が「被害者は生きている。裁判を傍聴に来ていた。自分が殺したのは人形。」などと述べたり、被告人が勝手に上告の取下をしたりするなど、被告人とのコミュニケーションもままならない困難な状況が紹介されていました。

2 ケース2
 第2は、横浜弁護士会の大河内秀明弁護士による報告です。罪名は強盗殺人(被害者2名)で、1審死刑、2審で控訴棄却となり、現在最高裁に係属中です。「犯人の疑いが濃厚な情況証拠があるにもかかわらず、冤罪の可能性の高い事例」として報告されました。被告人は被害金を現場から持ち出し、借金の支払いにあてたという不利な状況の中で自白させられ、死刑判決が出されました。大河内弁護人は、被告人単独での同時殺という認定は不可能であり、仮に被告人による異時殺としたら2人の被害者の殺害順序が矛盾する、との指摘をされました。また、死刑判決が下された場合は即日控訴、上告するのが鉄則であることや、上告趣意書、上告趣意補充書の効果的な提出方法等について話がなされました。

3 ケース3
 第3は、広島弁護士会の武井康年弁護士による報告です。無期で仮出獄中の強盗殺人事件で、1、2審は無期判決でしたが、検察官上告で破棄差し戻され、広島高裁で死刑判決が下されました。1、2審では最高裁が問題とした「計画性」と「殺意の継続」についてはほとんど証拠調べがなされておらず、被告人の「改善更生の余地」に関しても、仮出獄後の生活について保護司などからの証言を求めることが行われていませんでした。最高裁でもこうした点を踏まえて、自判することなく「さらに酌量すべき事情の有無につき審理を尽くさせるため」差し戻したにもかかわらず、広島高裁は最高裁の破棄判決という呪縛のもとに「まず死刑判決ありき」という結論先行の死刑判決を下しました。

4 感想
 「やっぱり死刑事件は大変だなあ。」というのが率直な感想です。こうした事件では弁護人が一人で事件を抱え込むのはよくないと思いました。経験のある弁護士に相談したり、率直な意見交換や経験交流をできるような体制を弁護士会として確立していくことが重要ではないかと感じました。最後のケース3においては、広島弁護士会で設けられた特別基金制度が活用され、弁護士会の支援が加わった形で弁護活動が行われていたという報告があり、会場からも注目を集めていました。