会報「SOPHIA」 平成17年5月号より
子どもの事件の現場から(37) 児童相談所の今昔物語
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豊田加茂児童相談センター
萬 屋 育 子
ここ数年の児童相談所の変貌は激しい。
虐待に対応する機関として内外に認知されてから児童相談所の仕事の質が変わったように思う。
まず、何よりも子どもの立場に立って判断するようになった。今まで子どもの立場に立たなかった訳ではないが、親をはじめ大人への遠慮があった。虐待ではと思っても親が同意しないと保護をためらった。今では子どもの安全が確保できないと判断したときに保護することを迷わなくなった。
相談を受けてから次の行動に移ることがとても早くなった。虐待相談に関わらず、対応できることはすぐに対応するというのが児童相談所の仕事のスタイルになっている。
児童相談所以外の人の協力を気軽に求めるようになった。児童福祉司は、医者、弁護士、家庭裁判所調査官など極めて専門性の高い職種の人に気後れするところがある。私は児童相談所に来る前、生活保護の仕事をしていた。破産や離婚などは弁護士に相談するとスムースに進むことを知っていたので、児童相談所に転勤後も困ると弁護士の知恵を借りていた。平成初めころ、私のそんなやり方を「内部の問題をすぐに外部に出す」「子どもの問題で白黒をつけたがる」などと批判する人もいた。しかし、愛知県が虐待対応弁護士制度を導入してからは問題解決に行き詰まると弁護士に相談することが定着した。子どもの相談で行き詰まったとき、どう法律的に解釈するか知恵をもらうと安心して仕事ができる。また、弁護士と共同で仕事をするようになって、虐待を認めず暴言を吐く親に対しても安心して対応できるようになった。今でこそ児童相談所は世間に認知されてきたが、これまでは知る人ぞ知るところだった。相談所の職員が子どもを保護できると説明しても親は納得せず、机を叩いて怒り狂っていた。弁護士が同席すると親は納得しないまでも机を叩いたり、暴言を吐くような場面は少なくなる。さらに、他の機関、職種と共同で仕事をすることにより児童相談所の専門性が明確になったと感じている。児童の処遇、つまりどこで誰と生活するのかについては児童相談所が決めることだが、相談所以外の機関や職種の人から意見をもらうことで安心して処遇を決定できる。
内部でも担当者だけで決めずに皆で検討し、役割を決めて動くことも多くなった。虐待通報には即判断、即対応が求められる。かつて、担当者が一人で抱え込み、上司の承諾も取れず、子どもを保護すべきか否か悩んでいた頃とは雲泥の差である。児童福祉司の専門性とは児童相談所に与えられているあらゆる権限・機能を駆使して児童の権利を守り、安心安全の場を提供し、児童自らが主権者たりうる存在になれるよう援助することである……最近このように思えるようになった。
弁護士と一緒に仕事をするのは大変だが面白い。打つ手がないときには打つ手を新たに考える、考えたと同時に次の行動が決まる、一人の子どもをめぐって大勢の人が献身的に動くなど、いつも感動を覚えている。
児童相談所は虐待だけではない、種々の子どもに関わる相談を受けている。また、親だけでなく、市町村、学校、保育園、病院、警察などからもいろいろな相談、情報提供がある。児童相談所が児童の権利を守る砦になるためにはもっと他の機関との協力が必要で自らの力量も高めなければならない、と疲れていないときには思う。
今暫くは児童相談所で仕事を続けようと考えていますので、これからも無理難題を快く引き受けていただけますようお願いします。