会報「SOPHIA」 平成17年3月号より

刑事司法改革勉強会〜展望・裁判員裁判〜


名城大学法科大学院 庄 山 哲 也

1、 3月17日、従来の議論を踏まえ、現段階における「裁判員裁判」の展望として、悲観的な立場から鈴木秀幸弁護士が、希望を託する立場から細井土夫弁護士が、それぞれレポーターとして報告されました。

2、 刑事司法における本来的な主要課題
(1)  鈴木弁護士は、自らが担当した税理士の脱税指南の無罪事件の経験をもとに刑事司法の問題点を浮き彫りにされました。この無罪事件においては、1審で1年6か月、これに要した時間が800時間(共同受任の弁護人は400時間)、2審は1年10か月で400時間(同170時間)であったが、果たして裁判員裁判でこのような時間の使い方ができるのか疑問であるとのことでした。
(2)  上記事件において無罪が得られたのは、幸運な事情が重なった面もあり、そもそも訴追側と被告人とは不対等構造(捜査側の長期間の捜査に対し弁護側が短時間で対応せざるを得ない状況、関係書類一切の押収による防御材料の剥奪等)であると指摘されました。そして、このような経験を踏まえ、現状の糾問的捜査と有罪推定裁判の状況による弁護活動の過重負担に対する軽減策、裁判官の「無罪の推定」への心証構造の転換等、刑事司法においては本来的な主要課題があると力説されました。
(3)  今回の裁判員裁判は、これらの本来的課題を放置したうえで新設されたものであり、多くの問題点があるとし、極めて短期の連日開廷において国民の名による迅速化の杜撰な審理、弁護活動体制の困難さ(どのような弁護人が担うのか、事務所経営の危機、勾留中の被告人との打合せの困難、証人等との打合せの困難、証人調書の未作成等)、裁判批判の封じ込め、等が予想されるとのことでした。
(4)  結末予想として、被告人の弁解の軽視、自白偏重傾向の加速、官製の弁護体制、国民の裁判員回避、マスコミ、国民、弁護士集団の裁判批判の弱体化等を挙げられました。

3、 刑事裁判が変わる可能性あり
 
(1)  他方、細井弁護士は、裁判員裁判によって、現状の刑事裁判のよくないところが変わる可能性、プラス面があるとの立場から報告されました。
(2)  直接主義・口頭主義を実質化した審理を旨とする裁判員裁判においては、現状の調書裁判が大きく変わる可能性があり、延いては、捜査段階における調書も変わらざるを得ないのではないか、また、一般国民が当事者としてではなく裁判所に出入りすることにより国民の裁判所に対するチェック機能が働くと考えられる等と話されました。
(3)  しかし、裁判員裁判は弁護士にとって大変な制度であることは間違いなく、関連する大問題として、逮捕勾留の運用(現状と変わらないと予想される)、刑事専門弁護士、国選弁護費用(謄写料その他の経費を含む)の水準等を挙げられました。

4、 議論 双方の立場からの報告後、出席者から様々な意見が出ました。検察審査会においては辞退する人が大多数であり、裁判員は本当に集められるのか、被告人に裁判員裁判か否かの選択権を与えるべきではないか、支援センターの弁護士では権力に立ち向かえない、知財・破産の研修は盛況なのに刑事が盛況でないのは国選報酬の問題がありこの点の改善が必須である、等の現状に厳しい意見が相次ぎました。

5、  感想 裁判員裁判は、法科大学院においてはわずかにふれられる程度であり、勉強会に出席して様々な問題点があることがわかり大変勉強になりました。