会報「SOPHIA」 平成17年3月号より

子どもの事件の現場から「付添人のうまい使い方」


会 員 高 橋 直 紹

 「もし試験観察とする場合、付添人はどのくらいの割合で『はぐるまの家』に行ってもらえますか」……処分が決まる直前に裁判官に別室に呼ばれて言われた思いがけない言葉であった(『はぐるまの家』は、問題行動を行ってしまった子どもたちを受け入れ、太鼓(はぐるま太鼓)の演奏を通して少年の立ち直りを支援している施設である)。

 本件は、数件の侵入盗で保護観察となったものの、その1か月後には再び侵入盗を行い約20件繰り返してきたというものであり、また、少年は観護措置中調査官とソリが合わず調査官のアドバイス(若干厳しかったが)に反発したりして、少年院送致の可能性が非常に高く、逆送もあり得る案件であった。

 少年自身、少年院送致もやむを得ないと覚悟しつつも、しかし、このような怠惰な生活を何とかしたい、今度こそ悪い友達との関係も断ち立ち直りたいと付添人に語ってきた。表現力もそれほど豊かでなく、一見つっぱった言い方にしか聞こえないものの、その言葉には本気が感じられた。

 少年の問題行動の背景には、父親の存在があった。事業を行い、何でもやってのける父、自らの行動に誇りを持つ父……少年は父を尊敬しながらも、父のようになれない自分を情けなく思っていた。父も、少年に愛情を持ちつつも、困難を乗り越えてきた自分のようにどうして息子はできないのかと歯がゆさを感じ、それを少年の前であからさまにしていた。それを聞いて少年は落ち込み、自暴自棄になる……悪循環である。何時しか、父子の会話も殆どない状況となっていた。

 中間審判が出るまで、付添人として特別なことをやったわけではない。付添人を呼んだ裁判官は、非常に厳しい事案ではあるが、少年のやる気を信じて試験観察にすることも考えている、しかし、少年は調査官の言葉に過剰に反応してしまう状況にある、そこで、当面の間は付添人による少年との面会により調査官が少年の状況を把握することが可能ならば、試験観察で様子を見たいということであった。『はぐるまの家』は福井県武生市にある。しかし、裁判官の熱意に押されて引き受けることにした。少年は在宅試験観察となり、『はぐるまの家』での生活が始まった。

 初めの3か月間は1か月に2回の割合で少年に会いに行った。結局半年で11回通ったことになる。北陸の景色の移り変わりを見ることができたのも思わぬ副産物だった。

 その間、色々なことがあったが、少年は大きく成長していった。今までの彼であれば1か月も持たなかったであろう共同生活の厳しさも乗り越えようとしていた。何よりも表情がとても柔らかくなった。3か月経って初めて調査官が少年に面会に行き、「よく頑張っているね」と声を掛けた。少年は何より調査官からのこの言葉が嬉しかったという。

 また、父親の少年に対する見方にも変化が見られ、少年が自分のペースで生きていくことを支援しようとするようになった。地元の友達との関係を切るために、両親は奔走し少年も納得できる帰住先を確保してきた。

 最終審判が『はぐるまの家』で行われた。裁判官は、少年の行為を厳しく指摘しながらも、6か月間の少年なりの頑張りを評価し、今後を期待して、保護観察処分とした。

 少年は、住み込みで働き始めた。また、希望だった高校にも通い始めている。

 こういう付添人の利用方法もありだと思う。