会報「SOPHIA」 平成17年2月号より

『心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律』
における審判制度及び付添人活動の概説


心神喪失者等医療観察法対策協議会
副座長 福 本 博 之

1、 目的等
 「心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者に対し、その適切な処遇を決定するための手続等を定めることにより、継続的かつ適切な医療並びにその確保のために必要な観察及び指導を行うことによって、その病状の改善及びこれに伴う同様の行為の再発の防止を図り、もってその社会復帰を促進する」(1条1項)
 「この法律による処遇に携わる者は、前項に規定する目的を踏まえ、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者が円滑に社会復帰をすることができるよう努めなければならない。」(同2項)

【解説】本法の目的のどこに重点を置くかによって、本法の解釈・運用も異なってくる可能性がある。少なくとも本法は「再犯のおそれ」を要件とせず、しかも後に追加された2項を併せ考慮すれば、本法は「医療及び福祉法」であると解釈しなければならない。
2、 対象行為
<1> 放火の罪(未遂を含む)
<2> 強制わいせつ、強姦の罪(未遂を含む)
<3> 殺人の罪(未遂を含む)
<4> 傷害の罪(未遂を含む)
<5> 強盗の罪(未遂を含む)

【解説】上記の一定の重大な犯罪を行なった者が本法の対象となる。
3、 対象者
 
<1> 不起訴処分となった者で、対象行為を行ったこと及び心神喪失者又は心神耗弱者であると認められた者
<2> 対象行為について、心神喪失により無罪の確定判決を受けた者又は心神耗弱により刑の減軽の確定裁判を受け、執行猶予の言渡しがあった者

【解説】実刑の判決が確定した者については(たとえ、心神耗弱が認定されたとしても)、本法の適用はなく、刑務所に収監されることになる。
4、 裁判員の義務
 検察官の申立により、対象者の住所、居所若しくは現在地又は行為地を管轄する地方裁判所において、裁判官(1人)と精神保健審判員(精神科医1人)の合議体によって審判がなされる。

【解説】当該対象者について、「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するためにこの法律による医療を受けさせる必要が明らかにないと認める場合」を除き、検察官は地方裁判所に対し審判申立をしなければならず、裁判所は「この法律による医療を受けさせる必要の有無、及びその医療の内容」を審判によって決定することになる。
 この合議体による裁判は、全員一致である。
 この審判手続においては、弁護士である付添人が必要的に付される(国選付添人)。
5、 鑑定入院命令
 対象行為を行ったと認められない場合、心神喪失者及び心神耗弱者のいずれでもないと認める場合。

【解説】付添人は、対象行為の存在に疑問がある場合、まずその事実関係の存否に関し付添人活動を行うこととなる。しかしながら、刑事司法の原則である適正手続の保障の明文規定はなく、また、対象者の供述・防御能力等の点、信頼関係の構築等の点で困難を極めることも予想されよう。さらに、故意、あるいは正当防衛における防衛の意思などの主観的要件の存否と対象行為の存否はどのような関係になるのかについても、議論の余地がある。さらに、証拠の全面的開示を求めていく場面でもある。
6、 申立の却下決定
 対象行為を行ったと認められない場合、心神喪失者及び心神耗弱者のいずれでもないと認める場合。

【解説】付添人は、対象行為の存在に疑問がある場合、まずその事実関係の存否に関し付添人活動を行うこととなる。しかしながら、刑事司法の原則である適正手続の保障の明文規定はなく、また、対象者の供述・防御能力等の点、信頼関係の構築等の点で困難を極めることも予想されよう。さらに、故意、あるいは正当防衛における防衛の意思などの主観的要件の存否と対象行為の存否はどのような関係になるのかについても、議論の余地がある。さらに、証拠の全面的開示を求めていく場面でもある。
7、 入院等の決定
 「対象行為を行った際の精神障害を改善し、これに伴って同様の行為を行うことなく、社会に復帰することを促進するため、
<1> 入院をさせて   又は
<2> 入院によらないで(=通院をさせて)
 この法律による医療を受けさせる必要がある場合」

【解説】入院命令の場合、期間は無限定。通院命令の場合、原則3年間(但し、2年を超えない範囲で延長可能)。
8、 審判における被害者等の傍聴など
 当該対象行為の被害者等(被害者又はその法定代理人若しくは被害者が死亡した場合若しくはその心身に重大な故障がある場合におけるその配偶者、直系親族若しくは兄弟姉妹)の申し出があり、裁判所の許可があった場合に可能。
 裁判所が申立の却下又は入院等の決定をした場合、被害者等へ通知する。また、被害者等からの申し出があった場合(審判確定後、3年以内)、対象者の氏名及び住居、決定の年月日・主文及び理由の要旨を通知する。 
9、 退院又は入院継続、医療終了の申立
 指定入院医療機関の管理者による退院許可、又は入院継続の申立。
 入院をしている者、その保護者又は付添人による退院許可又はこの法律による医療の終了の申立(但し、入院決定があった日から3ヶ月経過後に限る)。
 保護観察所の長による医療の終了、通院期間の延長又は再入院の申立
 これに対して、裁判所は、それぞれの決定を行う。
10、 抗告、再抗告
 検察官、指定入院医療機関の管理者、保護観察所の長、対象者・保護者又は付添人は、決定に影響を及ぼす法令違反、重大な事実誤認又は処分の著しい不当を理由として、2週間以内に抗告できる。
 さらに、憲法違反、憲法の解釈の誤り、最高裁・高裁判例違反を理由として、2週間以内に再抗告ができる。