会報「SOPHIA」 平成17年2月号より

刑事司法改革勉強会
−裁判員の権限と義務について−


会員 金 井 正 成

1、 裁判員と裁判官の役割分担
 裁判員の権限は、(1)事実の認定、(2)法令の適用(殺人罪か傷害致死罪か等)、(3)刑の量定であり(6条1項)、裁判官は、上記(1)〜(3)に加えて、(4)法令の解釈に係る判断、(5)訴訟手続に関する判断、(6)その他裁判員の関与する判断以外の判断(法廷警察権の行使、事件の配点・回付等)を行う(6条2項)。
 なお、(4)、(5)をするための審理は裁判官のみで行うが(6条3項)、裁判所はその審理について裁判員の立会を許すことができ(60条)、その判断のための評議の傍聴を許し、判断について裁判員の意見を聴くことができる(68条1項・3項)。
2、 裁判員の権限・権利
<1> 判断権限は、上記(1)〜(3)のとおり。
<2> 職権行使の独立性(8条) 裁判官の独立(憲法76条3項)と同趣旨の規定である。
<3> 質問権等(56条〜59条) 裁判長に告げて、裁判員の関与する判断に必要な事項について証人に尋問し、被告人に供述を求める等することができる。
<4> 自由心証主義(62条)
<5> 評議・評決(66条1項、67条) 評決は過半数が原則であるが、裁判官及び裁判員の双方の意見を含むとの要件があり、裁判員のみ、あるいは裁判官のみの全員一致で有罪にはできない(裁判員裁判は、裁判員6人、裁判官3人が原則)。なお、67条5項は、裁判長の裁判員に対する配慮を定めるが、裁判長によっては誘導のおそれが懸念される。また、配慮として裁判所から裁判員へ量刑資料の配付がなされることが適切か、出席者の間でも意見が分かれた。
<6> 旅費、日当及び宿泊料(11条、29条2項) 出頭のみで選任されなかった裁判員候補者にも当然支払われる。
3、 裁判員保護のための措置
 
<1> 不利益取扱の禁止(71条) 雇用主は労働者が裁判員の職務のため休暇を取得したことを理由として解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。
<2> 氏名・住所等を公にされない(72条)
<3> 接触の規制(73条) 何人も、被告事件に関し、当該被告事件の裁判員に接触してはならず、職務上知り得た秘密を知る目的で裁判員であった者に接触してはならない。制度の事後検証や報道への萎縮効果が心配。
4、 裁判員の義務
<1> 一般的義務(9条)法令にしたがい公平誠実に職務を行う義務、評議の秘密その他職務上知り得た秘密の漏示禁止義務
<2> 出頭義務(52条、63条1項)
<3> 宣誓義務(39条2項)
<4> 評議への出席、意見を述べる義務(66条2項)
<5> 評議の秘密保持義務(70条1項)
これらの違反は、解任事由となったり、過料、罰則の制裁がありうる。
5、 その他(心証形成の適正担保)
 罪体判断と量刑判断の手続二分論(中間判決制度)、被告人の公判廷での服装(手錠・腰縄つきのジャージ姿が裁判員に与える印象)も争点として議論されているようである
6、 余談
 勉強会直前にNHKスペシャルで放映された裁判員ドラマは量刑(実刑or執行猶予)が争点となっていたが、本当は「有罪or無罪」か「傷害致死or過失致死」(法令の適用)が争点となるべきとの指摘が出席者からあった。
 内容への賛否は別として、後藤昭・四宮啓・西村健・工藤美香の共著「実務家のための裁判員法入門」(現代人文社)は参考になると思います。