会報「SOPHIA」 平成17年2月号より

改正刑訴法・裁判員法講座(4)
裁判員裁判における審理と評決について


刑事弁護委員会
委員 沢 田 貴 人

 裁判員制度は、国民の中から選任された裁判員が裁判官とともに刑事訴訟手続に関与する制度である。裁判員制度対象事件については、対象裁判員の負担軽減の必要もあり、必要的に公判前整理手続に付される(裁判員法49条)。
1、 証拠能力の有無の判断と裁判員
 上記のように、裁判員制度は、必然的に公判前整理手続を伴うが、そのような場合に、証拠能力の有無について整理手続と公判手続のいずれで判断するのかが問題となるが、例えば、証拠能力といっても、自白の任意性というように信用性の判断と不可分であるような場合には裁判員のいる公判での判断ということになり、その証拠能力の争い方如何によって異なるものと思われる。
2、 第1回公判前の鑑定の是非
 裁判員制度では、一定の場合には第1回公判前に鑑定を実施できる旨定めているが、これが実際上可能なのか。鑑定の資料として何を用いるのかに関係する問題であるし、また、再鑑定はどのようにするのかという問題も残り、裁判員制度における迅速性・集中審理の要請との調和が求められる。
3、 事件の併合(追起訴の処理)
   追起訴があった場合には、弁論が併合されて審理が延びることになり裁判員に酷ではないかということもあるが、この点については、弁論を併合しないまま審理した場合の刑の調整制度を設けるなどの立法的な解決も必要となるものと思われる。
4、 評決の仕方
 法律上は、「裁判官と裁判員の双方の意見を含む合議体の員数の過半数による。」(同法66条以下)。
 この場合に、全体の過半数は有罪との意見だが、双方の意見を含んでいない場合には有罪とは認定できず無罪となるのかという点については、論点ごとの合議を行なう現在の実務からは、論点ごとに評議をしていき、双方の意見を含む合議体の過半数が得られない場合には、被告人に不利益な事実は存在しないとして、次の論点に移っていくという合議の組み立てになるものと思われる。
5、 量刑についての判断
 この点が最も関心の大きいところではないかと思われるが、裁判員制度を実施した場合の量刑判断の傾向として、被害者の処罰感情に拠ったものに惹きつけられ易いという側面は出るのではないかと思われる。また、現在使用されている所謂量刑相場との関係については、裁判員制度導入の趣旨からすれば、裁判官から裁判員に対して、一定の量刑相場に関する資料を提示した上で、裁判員の意見・感覚を反映させることが必要である。
6、 結語
 以上、裁判員制度の審理・評決において問題となりうる主な事項を概括的に述べてきたが、審理のあり方について重要なのは、裁判員の負担軽減のための迅速性の要請故に刑事裁判の目的である適正な審理・真実発見が後退してはならないということであり、また、評議・評決においても、裁判員制度導入の目的である国民の司法参加ということからすれば、裁判官が裁判員を説得する場であってはならないということである。そして、そのためには刑事裁判に参加する関係者とりわけ弁護士にとっては公判前整理のこともあり、大きな視点変化が求められるものと思われる。