会報「SOPHIA」 平成17年1月号より

改正刑訴法・裁判員法講座  裁判員の地位、選任手続など 


刑事弁護委員会 制度検討部会
稲 垣 高 志

 裁判員法の施行時期と勉強会
  「裁判員の参加する刑事裁判に関する法律」(以下、「法」)は平成16年5月28日に公布された。公布から5年以内に全面施行されることになっている。
  刑事弁護委員会制度検討部会では、今般の刑訴法改正等に関する勉強会を行っており、今後しばらくは、裁判員法を取り上げる。
  本稿は、勉強会(第3回)の内容をまとめたものである。

 裁判員法のインパクト
  裁判員裁判の対象事件は、おおざっぱには、死刑・無期懲役(禁固)に当たる罪と法定合議事件のうち故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪に係る事件である。
  最高裁ホームページによると、名古屋地裁管内の平成15年の数字では、154件が対象事件となるとのことである。しかし、その数量以上に、裁判員制度は、証拠開示・集中審理の促進、公判廷での心証形成、取調の可視化といった他の制度改革上の論点とも関連しているため、対象事件ばかりでなく刑事訴訟全般に影響を及ぼすことになると思われる。

 裁判員等の地位・権限等
  裁判員は、対象事件の審理のうち、有罪(刑の免除を含む)・無罪の判決、家裁移送の決定(少年法55条)の判断をする場合に、その事実認定、法令適用、量刑について合議体に参加し、法令の解釈に係る判断、訴訟手続に関する判断等については、職業裁判官の判断に従うものとされている(法6条)。
  判決宣告を除き、裁判員の出廷は開廷要件とされており、その構成の違法は絶対的控訴理由となる。
  裁判員には証人等への質問権限が与えられ、その関与する判断にかかる評議に参加し、意見を述べる。
  法は、裁判員の職権の独立をうたい(法8条)、裁判員の保護や負担軽減について、様々な手当を行っている(法5章等)。

 裁判員が選任されるまで
   裁判員は、衆議院議員の選挙権を持つ裁判員候補者の中から、選任される。
  対象事件について第1回公判期日が指定されると、裁判員候補者の名簿から、抽選で、選任手続に呼び出される人が決まる。
  呼び出される人の名簿は、選任手続期日の2日前までに検察官・弁護人に送付され、また裁判所が欠格事由、就職禁止事由、当該事件との関わり、辞退申立事由等(沢山あるので直接法文をご覧下さい)をチェックするために用いた質問票の写しを当日に閲覧できる。
  選任手続は、非公開で、被告人は当然には立会えない。裁判員候補者に対する質問は、裁判長から行われる(弁護人としては、質問を裁判長に求める形になる)。
  当事者は、選任手続きにおいて、裁判員候補者が、欠格事由等に該当するときばかりでなく、理由を示さずに一定数の裁判員候補者について、不選任とする決定を申し立てることができる(いわゆる専断的忌避)。また、後にこれらの事由が発覚した場合は、解任の申立もできる。
  これらの手続きの詳細は、今後制定される規則によることになる。

 勉強が大変
  裁判員裁判における手続き上の権利を勉強するほかにも、裁判員候補者や裁判員になった人からの相談を受けることも予想されるところであり、勉強が大変である。