モンゴルからの近況報告

JICAモンゴル法整備支援専門家
会 員  田 邊 正 紀

 モンゴルは、現在(12月)最高気温−10度、最低気温−25度位です。この記事が掲載される頃には、最低気温が−40度前後に達していることと思います。会員の皆様にその存在を忘れられないよう極寒の大地での最近の活動を報告させていただきます。

 9月からモンゴル国立大学法学部において、3、4年生を対象に月1回のペースで「判例活用法」という講義を実施しています。これは、来年度として予定している「判例集出版プロジェクト」に先立ち、公開された判例を活用できる人材を育成することを目的としています。モンゴルの学生は、社会主義時代の言論弾圧に対する反動のように、うるさいくらいに講義で自分の意見を主張します。しかし、相手の理論に従うと結論がどうなるかというような議論は極めて苦手です。例えば、権利の濫用の認定に関し客観的要件の他に主観的要件を要求する宇奈月温泉事件とこれを要求しない信玄公旗掛松事件を並べて説明すると、「どちらの判決が優れていると思うか」という質問に対し意見を言うことは得意ですが、主観的要件の存在の認定が極めて不利な仮定の事例を作って、「訴訟に勝つためにどちらの判例をアピールしますか」と問うと、「宇奈月温泉事件のほうが判例として優れているからそちらをアピールする」と言って曲げないなどということが頻繁に起こります。説得するのは大変ですが、静まり返った教室で教えるよりもよっぽどやりがいがあります。

 10月末に「モンゴルに商取引法が必要かどうかを検討するシンポジウム」を開催しました。これは、モンゴル法務内務省からかねてより要請のあった「商取引法制定支援」についてプロジェクト化の必要性を探ることを目的としていました。私個人としては「モンゴルに商取引法は時期尚早である」との見解を持ちつつも、民法とは異なる迅速・大量の取引への対応のための商取引法の優位性について中立的な立場から話をし、他国援助機関、モンゴルの実務家、研究者などからも様々な意見が述べられました。結果として、取引の規定は民法で十分であり、商取引法は不要であるとの意見が大勢を占めました。モンゴル人は見栄えの良い商取引法の制定を志向すると予想していた私は、この結果を見て「モンゴルの法律家の判断能力も捨てたものではない」と思いました。

 12月初旬に名古屋大学の行政法の教授を招いて「立法能力向上セミナー」を開催しました。これは、モンゴル立法担当者は外国法を参考に法律を作るばかりで、政策目標もあやふやのまま立法事実も調査しないことが多いことから、これを改善することを目的に行ったものです。1日目は講義とし、2日目は演習として参加者に実際の立法作業を行ってもらいましたが、予想通り、立法目的とは関係のない許可基準を作成したり、営業の自由を考慮しない規制をかけたりなど、社会主義から抜け出せていないことを実感させられる結果となりました。
 今後2005年2月には、弁護士会の法律相談センター立ち上げに向けた日本への研修旅行を計画しています。
 なお、末筆となりましたが、名古屋弁護士会図書室から多数の書籍の寄贈を頂きましたことに対し、厚くお礼申し上げます。寄贈していただいた書籍は、モンゴル国立大学内に設置予定の「日本法教育センター」において有効に活用させていただく予定です。