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はじめに
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私は、法科大学院検討特別委員会の教育研究部会員として、11月19日、南山法科大学院の授業を傍聴させていただきました。
「法科大学院」という言葉はよく耳にしても、実際の授業内容を知る機会は少なく、授業の傍聴はとても興味がありました。
本稿の題名を「法科大学院で身につけるべきものは??」などと大袈裟につけてみましたが、本稿は授業を傍聴させていただいた私の個人的な感想にすぎませんので、ご了解下さい。
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本日の授業内容
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この日の授業は、既習者を対象とした上口裕教授による刑事訴訟法演習(90分間)でした。受講者数は10名で、各机は教授に向かってコの字型に配置されて討論がしやすい形態となっており、学生の約半数はパソコンを持参しておりました。
演習内容は「被告人の特定と裁判の効力」で、被告人の特定の基準、被告人に欺罔行為があった場合の実体判決の効力や、身代わり犯人に関連する問題の検討がなされました。
各手続に応じた設問が設定されており、その設問に沿って、教授が学生に対し設問に対する回答を求めたり、さらに突っ込んだ質問をして、その考えを深めるような工夫がされていました。学生が10名程度であるため、教授が学生を指名するときは名前で呼んでおり、一方学生も指名された時だけでなく、随時質問ができ、ゼミのような雰囲気で、このように演習を行った論点は、確実に身に付くだろうと感じました。
一方私は、何となく覚えのある論点だとは思いつつ、このところ刑事訴訟法から遠ざかっていたため、万が一、質問されたらどうしようかと緊張しました。上口教授が授業の冒頭「今日は弁護士の方が傍聴にお越しになっていますが、普段通りに傍聴者はいないものと考えて授業を進めます。」と話されたことが間違いないことを祈りつつ、それでも質問されたらどのように言訳をしようか、不安な時間を過ごしました。
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学生との質疑において |
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演習終了後、学生の方と話をさせていただく機会がありました。そこで、演習に対してどのような準備をして臨んでいるかをお聞きしてみました。
この日の演習については、約1週間前にインターネット上で設問と参考図書の情報が開示されるので、各学生は自分でその情報を取得して予習を行うとのことです。
ただし、他の授業の課題などもあり、実際に取組むことができるのは前日くらいからであるとのことでした。それでも演習のための予習は4〜5時間かけていると答えてくれました。
演習当日には、教授が作成した分かりやすいレジュメ(設問に対する問題の所在、問題に対する諸説の説明等が記載されているもの)が配布されますが、それまでは各自が基本書等を中心に設問に取組むとのことでした。
上口教授は学生に対し「考えたことはメモを残すように」と指導され、これをもとに演習における議論が闊達になることを期待されているようでした。また、同教授は常に実体的な手続を念頭において演習をされているとのことで、本演習でも実際の裁判手続のイメージがもてるように工夫されていたと思います。
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学生をとりまく環境 |
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南山法科大学院では、学生のニーズに応え、午後11時まで法科大学院の施設を利用できるとのことでした。学生の中には、泊まり込みができることを期待する声もあるとのことですが、警備の関係もあり、現在はそこまでは至っていないとのことです。
7階建ての建物の中には、立派な模擬法廷があり、その造りは極めて精巧でした。法廷の入り口には、本日の開廷予定が掲示できるボードがあり、その上には法廷傍聴の注意事項(「ゼッケン、はちまき禁止等」)が記載されておりました。また、入口扉は傍聴人用・関係者用と分かれて設置され、のぞき窓があり、法廷内においても裁判官用の出入口が設置され、法服まで用意されておりました。
このような設備で、模擬裁判を行えば、実際とほぼ変わらない体験ができるだろうと、びっくりしました。
また、頂いたパンフレットによれば実務家による「アドバイザー制」が設けられ、アドバイザーはあらかじめ決められた時間に法科大学院の建物内にあるアドバイザールームで学生の質問や相談を受けることとなっており、「アドバイザー」としてよく存じ上げている弁護士方の写真が掲載されておりました。この制度も学生にとっては心強いものと思います。
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おわりに |
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学生に新司法試験についての認識を尋ねたところ「具体的なイメージはまだ持っていない。」「日々の課題に追われていて、日々の課題をこなすことに精一杯。」との回答がありました。
確かに、毎日の演習等にそれなりの予習をして臨む場合は、全体について復習をする時間などとれるはずはないだろうと思います。
そう思いながら事務所に戻り、事務所の弁護士に当日の授業について感想を述べていたところ「演習の答えは予備校のレジュメを探せばすぐじゃないですか。」という答えが返ってきました。
確かに私も授業を聞いていて何となく覚えのある論点だという気がしたのですから、予備校がそのような論点に対し、レジュメや回答を用意していることは、十二分に想定できます。
では、予備校のレジュメを使用することは悪いことなのか?と考えると、予備校のレジュメを使えば自分で調べることや考えることをしなくなる欠点がある気がしますが、そもそも、刑事訴訟法の諸説を自分で考える必要があるのか、また、実務において、その知識をどこから得てきたかなど問題にならないので、そうであれば予備校のレジュメを利用するのは要領がよいということなのか?しかしそうであるとすれば、法科大学院で学ぶ意味がないのではないか?そもそも、法科大学院で身につけるべきものは何なのか?と考えさせられてしまいました。
いずれにしても学生は皆、毎日の講義や演習に真剣に取り組んでいる姿勢が明らかで、試験制度の過渡期にある学生に彼らの責任のない部分(新司法試験の内容・合格基準等)で余計な負担がかからないことを願うばかりです。
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