宇治少年院・京都医療少年院訪問記

 
子どもの権利特別委員会
委員 柳 瀬 陽 子

はじめに
 子どもの権利委員会では、平成13年度より、少年院等の子どもの権利に関わる施設の見学を実施しています。今年度は、去る11月22日、京都府宇治市の、宇治少年院及び京都医療少年院を訪問しました。この企画は、中弁連の他の弁護士会にも事前に案内を出し、当日は、福井や岐阜、金沢の方々にもご参加いただきました。

2 宇治少年院
 JR奈良線黄檗駅から、ゆるやかな坂道を歩いて10分程のところにある宇治少年院は、昭和22年に発足した初等・中等少年院です。現在の施設は昭和45年に完成したもので築35年であり、老朽化が進んでいます。
 入所少年の非行事実は、窃盗事犯が半数以上を占め、強盗や傷害などの凶悪犯、粗暴犯、性犯罪は30%です。初発非行年齢は低く、小学校3年生までに非行を経験している少年が10%おり、万引き・怠学・家出は75%以上の少年が経験し、暴走族・暴力団経験者は18%、シンナー・覚せい剤等の薬物経験者も約30%います。
 近年犯罪被害者への対策が注目されてきていますが、少年院でも、被害者に対する贖罪教育として、被害者の痛み苦しみを理解させるような指導を行っており、遺族の手記を読んでの感想文作成や、ロールレタリング、心の相談員によるカウンセリングなどを行っています。
 宇治少年院の特質としてあげられるのは、近年マスコミなどでも取り上げられるようになった、LD(学習障害)、ADHD(注意欠陥多動性障害)、高機能自閉症等の軽度発達障害の症状がみられる少年に対し、そうした障害に配慮した処遇に取り組んでいる点です。平成12年より、関連学会に職員を派遣しての研修や、外部から大学教員など専門職を招いての定期的なワークショップなどを行い、聞く力、ひいては少年の話す力を伸ばすよう努めたりしているということです。他に同様の取り組みをしている施設としては、加古川学園があります。
 付添人として自分の担当する少年にそのような発達障害が見られる、少年院送致となる可能性も高いケースの場合、予め少年院にその事実を告げ、入所段階から処遇の参考にしてもらうにはどうしたらいいか、という質問に対しては、少年鑑別所の教官にその旨情報を伝えておいてもらえれば、少年院にも情報が伝わると思われるので、そのルートでお願いしたいとのことでした。
 現在定員104名のところに、少年140名が入所しており、過剰収容に対する対応に職員の方も苦慮しておられる様子でした。
 施設内を案内していただいている途中、作業中の少年達ともすれ違いましたが、どの少年もまだあどけなく幼い感じで、事件を起こしたという過去はあるにせよ、その表情からは少年の心細さが感じられ胸が痛みました。

3 京都医療少年院
同じくJR奈良線黄檗駅隣りの木幡駅より徒歩15分ほどのところにある京都医療少年院は、西日本における少年院の医療センターとしての性格をもつ医療専門施設です。少年院というよりは、病院に近く、少年の居室も通常の病院と同様にベッドが配置された病室仕様となっています。
 こちらも昭和23年に私立の脳病院を法務省が買収したことに始まる、全国でも5本の指に入る古い施設であり、昭和37年に全面改築工事をしたものの、その後は細々と手直しをする程度で、現在に至っています。
 定員144名のところ、現在76名が入所しており、非行事実は、刑法犯69%、特別法犯28%、虞犯3%、刑法犯では窃盗・強盗・傷害で半数を占め、特別法犯では、覚せい剤取締法違反17%を占めています。また身体疾患の少年は27%、精神疾患の少年が73%となっており、薬物事犯の増加に伴い、平成9年に身体疾患と精神疾患の割合が逆転したそうです。
 ここでは、医療措置課程(心身に著しい故障があり、主として医療措置を必要とする少年が対象)と特殊教育課程(重度の知的障害を有するなど、特殊教育を必要とする少年が対象)の2つの処遇課程が設置されていますが、特殊教育課程については女子のみが対象であり、男子については宮川医療少年院、また、女子についても軽度のものは交野女子学院が行っています。
 少年には個別に主治医がついて病状を管理し、教育担当の教官と連携して、医療と矯正が互いに共通認識を持ちつつ進めることを前提に、生活指導、職業補導、保健体育等のカリキュラムが組まれています。
 こちらでも、被害者の心情を考えさせる指導を行っており、実際に少年から被害者に謝罪文を発信することもあるそうです。
 処遇に困難を伴う少年の背景には、必ず虐待があり、現場の人間のほとんどは、少年法の厳罰化に反対している、少年の人生は被害者として始まっている、との院長のお話が印象に残りました。