ロースクール授業傍聴 中京大学 −松永裁判官の授業を傍聴して−

 
法科大学院検討特別委員会 教育研究部会
鈴 木 隆 弘

はじめに
 私は、法科大学院検討特別委員会の教育研究部会員として、平成16年6月8日の愛知大学法科大学院における授業傍聴、そして平成16年7月12日の名古屋大学法科大学院における授業傍聴に引き続き、今回は平成16年11月8日、中京大学法科大学院における授業を傍聴して参りました。
 私は、これまで愛知大学と名古屋大学の法科大学院の授業を傍聴したこともあり、上記大学と今回傍聴する中京大学の授業の様子や学生たちの姿勢を比較しながら、今回中京大学における授業を傍聴しました。
 なお、今回のご報告は、私が傍聴した各法科大学院における授業の範囲内での、私の視点での感想でありますことをあらかじめご了承いただければと存じます。

2 今回私が傍聴した授業について
 中京大学名古屋キャンパスの別館「Annex」にて、中京大学ロースクール(法科大学院)の授業は行われます。開講1年目の今年は、ロースクールの学生は全部で約30名。全員が、「未修者」として入学しているとのことで、1年目の今年は今回傍聴した授業を含めすべての授業が必須科目とのことです。
 今回私が傍聴させていただいたのは、平成16年11月8日、14時40分から16時10分までの、松永眞明裁判官による「民事裁判官論」の授業です。今回は年間9回の授業のうち、第6回目でした。教室をざっと見渡すと、出席していた学生30名のうち、約・が女性でした。また、授業後学生の一人に聞いたところ、学生のうち約10名は既婚者で、お子さんがいらっしゃる方もいるそうです。また、学生の約半数は社会経験があり、現在も働きながら法科大学院に通っている方も3〜4名いらっしゃるとのことです。
 今回の授業は、学生たちがすでに提出済みの課題について、授業の中で議論する形をとっており、裁判官の立場で、訴訟物、請求原因、当事者、請求金額に請求原因は不足しないか等、訴状を厳密に審査・検討し、最終的に補正勧告をするか、また、する場合どのような補正勧告をするかを導き出すというのがテーマでした。

3 今回の授業内容は?
 今回の授業の内容は、訴訟物が特定できない訴状 ―賃貸人甲が賃借人乙の連帯保証人である丙に対し、金180万円の支払を求める訴状― について、裁判官の立場で訴状を審査・検討し、金180万円の請求原因事実は何か等を検討するものでした。
 今回の授業で議論の対象となった課題については、学生が授業の前にレポートで提出し、松永教授が提出されたレポートを授業の前にすべてチェックし、争点ごとに整理されていて、どの学生がどの意見か、学生の名前までチェックしていて、授業の中でそれらの異なる意見を浮き出させるために、異なる意見を持つ学生それぞれに意見と理由を質問されていました。
 松永教授は、授業の中で次々に学生を当てられ、訴状はどこに提出するか、受理後どこに振り分けられるか、振り分けされた訴状は誰が審査するか、また、何を見て何について審査、検討するか、といった質問から、まるで司法研修所の授業で行われるような極めて高度な要件事実に関する質問まで、様々な質問をされ、「未修者」でかつロースクール1年目である学生たちはなかなか即答できない場面も見受けられました。しかし、教授から学生一人一人へ満遍なく質問がされ、その都度学生たちは真剣に考えて答えなければならないため、終始気を抜かず集中することが求められる、全学生参加型の授業であると感じました。
 授業後、学生に聞いたところによると、この授業に関しては、毎回あらかじめ資料が配られ、各自それをしっかり読んで授業に臨むそうです。基本的に予習・復習は不可欠で、かなり高度な授業内容であるため、毎回授業を復習も含めて完全に理解しておかないと、授業内容についていけないため、毎回の授業の積み重ねが重要であると学生たちは認識しているようでした。
 また、この授業を受けることにより、裁判官という立場におけるものの考え方が勉強になったという感想がありました。この授業は裁判官論の授業ですが、弁護士志望の学生にとっても、裁判官の立場での訴状の審査・検討について学ぶことは、有益であると学生たちは考えていました。

4 おわりに
 私が、愛知大学、名古屋大学、そして中京大学の3大学の法科大学院の授業を続けて傍聴した感想は、各大学とも、実務を意識した授業が展開されているということ、そして、学生たちも、実務を意識して授業を受けているという点が共通するという印象を受けました。また、学生たちの授業に真剣に取り組む姿勢については、どの大学においてもまったく変わりがありませんでした。
 授業後に、学生たちに中京大学ロースクールの良いところを挙げてもらったところ、今回の松永教授のように実務家教員の方が多いため、実務に役立つ実際的な内容の授業が受けられるということ、また、学生数が現在はまだ少ないため、少人数制の授業で、教授との距離が近いという意見がありました。今回の授業も、教授が学生一人一人とやりとりをする場面が多々あり、時には冗談なども加えてリラックスした雰囲気の中で、実務的でかつ高度な授業を受けられるという点は、中京大学ロースクールの優れた点なのではないでしょうか。一方で、学生数の少なさのために、競争意識が生まれにくいことを心配している学生もいました。また、学生たちにとって、第一の目的は司法試験に合格して実務家になることであるため、ロースクールの授業の中でも司法試験に直接役立つような科目により興味があり、また、授業以外でもほとんど一日中勉強しているとのことでした。今年始まったばかりのロースクールという制度自体について漠然と不安を感じている学生もいて、自分の大学の中だけではなく、他のロースクールの学生とも交流を持って情報交換をすることによって、その不安を解消しているとのことです。
 私は、愛知大学、名古屋大学に続いて、今回中京大学の学生たちの努力している姿を見て、強く感銘を受けました。彼らに、優秀な実務家になってほしい気持ちでいっぱいです。