接見禁止の悪用

 

刑事弁護委員会 接見交通部会員
伊 神 喜 弘

 名古屋弁護士会が名古屋地方裁判所本庁に照会した結果によると、刑事訴訟法81条に基づく公訴提起前の接見禁止決定の全勾留決定に対する割合は次のとおり推移している。
  平成11年(1999年) 21%
  平成12年(2000年) 21.6%
  平成13年(2001年) 23.4%
  平成14年(2002年) 24%
  平成15年(2003年) 30%
 公訴提起後、第1回公判期日までの接見禁止の割合は以下のとおりである(但し、全勾留を分母にしており、勾留されても起訴されない事例もあるだろうから接見禁止の割合はもっと増えるかもしれない。)。
  平成11年(1999年) 1%
  平成12年(2000年) 1.8%
  平成13年(2001年) 3%
  平成14年(2002年) 3.4%
  平成15年(2003年) 4.1%
 第1回公判期日後の接見禁止の割合は次のとおりである(公訴提起後、第1回公判期日までの割合より大きいことには多少の疑問があるが、同一事件について各公判期日毎に接見禁止決定が繰り返される場合があり、重複してカウントされているからであろうか。この点は保留する。)。
  平成11年(1999年) 1.6%
  平成12年(2000年) 1.6%
  平成13年(2001年) 3.4%
  平成14年(2002年) 2.5%
  平成15年(2003年) 5.7%
 いずれも、この数年著しく増加しており、刑事弁護を担当している我々の実感を裏付けている。
 そこで、こうした接見禁止の著しい増加の背景を考えたい。

 昭和62年(1987年)以前は、弁護人と被疑者との接見交通について検察官による刑事訴訟法39条3項による指定権が著しく濫用されていた。接見禁止の決定がなされた事件について、これと連動させて(接見禁止決定と何の関連もないのに!!)、検察官が一般的指定をしていた。この一般的指定がされると、弁護人といえども検察官が交付する具体的指定書を勾留場所に持参しなければ接見は出来なかった。連日の接見はできず、接見時間も15分〜20分程度に制限されていた。
 このような一般的指定の制度が廃止されて、通知制度となりそれによる運用が今日まで続いている。通知制度の下では、接見禁止決定との連動はなくなっている。また、検察官が刑事訴訟法39条3項によって指定権を行使し、弁護人と被疑者との接見を制限することも抑制されるようになっている。

 接見禁止の著しい増加は、検察官がもはや弁護人と被疑者との接見を以前のように制限できなくなっていることに対応し、被疑者・被告人の防御権及び弁護人の弁護権を制限するための一つの有効な手段ととらえていることと考えられる。
 その理論的根拠として、検察庁は「接見禁止決定の潜脱」ということが多い。
 平成12年(2000年)に埼玉で、共犯事件における共犯者Aのノートを共犯者Bの弁護人がBにその防御権行使の便宜のために差し入れ検討の機会を与えた。これに対して、検察庁は次席検事の名で「接見禁止決定を潜脱」する行為として弁護士会に懲戒請求の申立をした(綱紀委員会で懲戒不相当の結論となっているが)。
 また、平成15年(2003年)には、鹿児島で、検察庁が国選弁護人が接見禁止中の被告人に対して、家族の励ましの手紙を接見中見せたことが「接見禁止決定を潜脱」するものとして、国選弁護人としてふさわしくないとして解任の申し出をし、裁判所がこれに応じて解任したという事件まで発生している。

 接見禁止中の被疑者は、起訴されたならば接見禁止がなくなり、家族や友人・知人と面会できるようになることを切望している。起訴されても接見禁止が続き面会が許されない状態が続くことを知ると、その落胆と精神的衝撃は極めて大きい。
 否認している場合、まず公訴提起後も接見禁止が続くことを覚悟しなければならないのが実情である。
 捜査段階で認めていても、検察官は第1回公判期日で被告人が公訴事実を全部認め、証拠にも同意することを意図して起訴後も接見禁止の請求をすることが多い。これなど、接見禁止の明らかな濫用である。
 このような接見禁止の運用の実情から、被告人は仮に争える事案であっても接見禁止が続く苦痛を免れるために公訴事実をあえて認めるという選択をすることも多い実態があることを忘れてはならない。

 接見禁止の横行や濫用をいかに、チェックするかであるが、本来は裁判官が勾留をしているのにその上、接見禁止をしなければならないような場合に限って、検察官の接見禁止請求を認めるようにすべきであるが、実態はこのチェック機能が果たされているとは思われない。
 私たち弁護人も準抗告(第1回公判前)や抗告(第1回公判後)を積極的にして、このような現状を打破する努力をしなければならない。