【第52回中部弁護士会連合会定期弁護士大会】    



第52回中部弁護士会連合会定期弁護士大会

会 員 伊 藤 倫 文

 平成16年10月15日、第52回中部弁護士会連合会定期弁護士大会が、岐阜グランドホテルで開催された。
 大会に先立って「自然と地域振興の調和をめざして−中部地方の山岳自然公園の現状と未来−」と題してシンポジウムが開かれた(詳細は別項のとおり)。
 午後からの大会では、
  ・「自然公園の持続的可能な利用と環境保全のための法整備等を求める宣言」
  ・「取調べの可視化を求める決議」
  ・「司法支援センターに関する決議」
  ・「日本国憲法の平和主義を堅持する決議」
が採決された。
 議事の後、「日本司法支援センター」についての日弁連執行部との意見交換会が行われた。現在の状況等について説明がなされた後、質問がなされたが、アクセスポイントとしての役割、法律扶助に対する財政的措置・審査方法についての見通し、国選弁護に対する指名方法等の説明がなされた。ただ、いずれにしても、支援センターを支えるべきスタッフ弁護士をどのように確保するかが最大課題のようである。
 その後、被表彰者・被感謝者発表等がなされ、大会は閉会した。
 大会閉会後は、会場をかえて、懇親会が催された。
 なお、次年度の中弁連大会の開催地は福井に決定した。


《中弁連大会シンポ》
自然と地域振興の調和をめざして−中部山岳国立公園の現状と未来−

会 員  山 田 麻 登

1 平成16年10月15日、中部弁護士会連合会第52回定期大会シンポジウム「自然と地域振興の調和をめざして−中部山岳国立公園の現状と未来−」が開催された。

2 最初に基調報告として、シンポジウム実行委員会から、シンポ会場となった岐阜グランドホテル・ロイヤルシアターの大型スクリーンを使用した、映像とナレーションによる報告が行われた。
 まず中部地方が擁する四つの山岳国立公園の美しい自然の映像が多数紹介され、その後、現在問題となっている過剰利用(オーバーユース)の状況を示す映像が紹介された。オーバーユースとは、多数の利用者が一定時期に一定場所に集中して、自然破壊や質の劣化をもたらす現象であり、よく言われる自動車の排ガスのみならず、観光客による踏み荒らし、ペットの持ち込み、サマースキーの際の雪面硬化剤散布の問題などが指摘された。
 通称「硫安」と呼ばれる雪面硬化剤を撒くと緩んだ雪面でも硬化するので、競技スキーヤーにとっては、雪温の上がる春以降にも高速で滑降するための必需品なのだが、近年はこの物質が土壌や生態系にもたらす悪影響が指摘されており、使用に対して警鐘が鳴らされているところである(筆者は、大学時代に競技スキー部に所属し、シーズンごとに大量の硫安をあちこちのスキー場に撒きまくっており、実は、今回の報告で紹介された乗鞍岳でも撒いたことがある。報告中は冷や汗ものであった)。
 さて、報告では、次にヨーロッパの自然公園の様子が報告された。今回のシンポのために、実行委員が現地調査に出向いて撮影したオーストリアやスイスの自然公園の美しい風景がスクリーンに映し出され、観衆を魅了していた。
 ヨーロッパではオーバーユースの問題は全くなく、生態系がきちんと保護されているとのことで、加えて、エコツーリズム(地域固有の自然を生かした観光)といった概念が紹介され、訪れた観光客が、専門家から解説を受け理解を深めながら自然と触れ合う様子が映し出された。

3 次に、基調講演として、加藤峰夫・横浜国立大学教授(環境法)から、「改正自然公園法とこれからの自然保護法制」と題した講演が行われた。
 講演では、日本の自然公園制度の特徴として、地域制(公園設置者である国が公園地域の土地所有権や管理権を必ずしも所有せず、民有地や公有地を含む土地を公園地域として指定することによって、そこが国立公園となるという制度)を挙げ、もともと人の住んでいるところを公園にする以上、なかなか強い規制はかけられず、どうしても開発規制が中心となってきたことを指摘した上で、問題点として、生態系保全の視点が弱いこと、行政による公園管理権限が弱いことが挙げられた。そして、自然公園を積極的に管理するとしても、人的・費用的資源が決定的に不足していることが指摘された。
 そして、これからの自然保護法制が目指すべき方向性として、上記の地域制を再評価し、地域のイニシアチブを生かした持続的な利用を実現することが重要であることが提示され、具体的には、公園管理計画の立案・策定段階からの「地域と市民の積極的な参加」を、という提案がなされた。

4 続いて、安藤健、原田彰好両弁護士のコーディネートにより、パネルディスカッションが行われた。パネリストとして、基調講演を行った加藤教授、小谷伸一・丹生川村村長、笹岡達男・環境省中部地区自然保護事務所長、中村浩志・信州大学教授(生態学専攻)の4氏が、それぞれの立場から、自然公園保護と地域振興との調和について、熱心な議論を展開された。
 興味深かったのは、丹生川村長小谷氏の発言である。
 乗鞍岳を行政区域として擁する丹生川村が行ったマイカー乗り入れ規制の現状について紹介があり、さらに、村が取り組んでいるエコツーリズム的観光である、五色ケ原の人数限定ガイド付きコースが好評を博していることが紹介された。
 村長からは、「お客様をおもてなしする能力に優れたガイドを育成することの困難さ」という趣旨の発言があり、これに対して他のパネリストから、「『お客様』『おもてなし』という言葉が自治体トップから出ることが驚きである」との反応があった。
 また、村長からは、「マイカー規制によって観光客が減り、観光業からの反発は必至であるが、自分としては、目先の銭をとるか、細く長く銭をとるかといって説得している。乗鞍に対して、あそこは混みすぎでたどりつくだけで時間がかかるというようなイメージをもたれたら終わりなのだ、イメージを落とすのは簡単だが、回復するのは困難だ。」という発言があり、非常に優れた経営能力をお持ちであろうことがうかがわれた。
 小谷村長の発言が示すように、この日のテーマである、自然保護と観光業・地域振興の両立のためには、環境保護の視点とともに、いかに人を呼び込み、喜んでもらうかという問題意識を持ち、そのためには、バランス感覚を持ったしっかりした経営手腕が必要であることがあらためて確認されたこの日のシンポジウムであった。