1 |
去る平成16年9月14日南山大学でアミティの映画「LIFERS(ライファーズ)」の上映会及び、アミティのナヤ・アービターさんとこの映画の監督・プロデューサーである坂上香さんのトークの会が行われた。
元々主催しようと目論んでいた当会子どもの権利特別委員会の委員のみならず、以前当会主催の犯罪被害者と死刑制度を考える企画に坂上さんがシンポジストとして参加されたこともあり、人権擁護委員会死刑問題研究部会の部会員など当会の会員も多数参加した。
|
2 |
「LIFERS(ライファーズ)」とは、米国で現在13万人余りもいる終身刑若しくは無期刑受刑者のことである。彼らは殺人や強盗など「凶悪」な罪を犯し、「更生不可能」のレッテルを貼られた人々であり、社会から忘れた存在である。セラピューテック・コミュニティ(治療共同体)という考え方に基づき活動するNPO「アミティ」では、カルフォルニア州の刑務所内更生プログラムで、このライファーズを積極的に受け入れてきた。
アミティの特徴は、暴力の加害者となった人々が自らの子ども時代に体験した「被害者性」に気付くことの重要性に着目し、問題を抱える人々に回復の道を示していくというアプローチを用いることである。「なぜ犯罪を犯すようになったのか」……受刑者たちはこの問いに徹底的に向き合い、罪の償いを、新しい生き方を、模索していく。刑務所の中で、負の存在であり、陰の影響力を持っていたライファーズが、かかるプログラムの中で生まれ変わり、それが他の受刑中の者たちにいい影響を及ぼしていく。社会復帰した者たちは、自分たちが更生したい、変わりたいと思えるようになったきっかけは、「ライファーズのおかげだ」と口にする……。
今回上映された映画は、このようなアミティの活動を通して終身刑受刑者たちの心の変化、そしてそれが他の受刑者たちに影響を及ぼしていく様子を追った生々しいドキュメンタリー映画であった。
|
3 |
恥ずかしい限りであるが、以前は刑事事件を担当しても、「更生」という言葉は正に言葉として用いるだけであった。少年事件を担当するようになり、事件後も少年たちに関わる機会を多少持つようになって、ようやく「更生」の意味を少し考え始めている。
「非行の背景にある虐待」という言葉がある。非行に走る少年たちの成育歴を辿ると大人たちからの不適切な扱いを受けてきたことを発見する。彼らが受けてきた不合理な扱いは問題とされないまま、犯した事実だけを取り上げて厳しく責め、罪を負わせたところで、どれだけ更生に資するの……。「加害者」の「被害者」性を受け止めることによって更生を図るというアミティのアプローチはとても共感できるものであった。
|
4 |
ヤナ・アービターさんは、「日本は米国の過ちを繰り返さないで欲しい」と訴える。犯罪者に対する厳罰の世論の中で、受刑者が300万人となっている米国。厳罰化してもただ対症療法的に刑務所を超満員にするだけで、犯罪は減少していない……。
そんな中で、アミティの更生プログラムを受けた者の再犯率は、それを受けない者のそれと比較して半分以下に抑えられているという。米国の犯罪政策担当機関もアミティの更生プログラムに注目している。
今、我が国も厳罰化の考え方が日増しに強くなっている。米国が歩んできた道を我々も歩みつつあるのである。刑務所や少年院に罪を犯した者たちを送り出す手続に関わる者として、その「更生」についても真剣に考えていかなければならないと痛感した。求刑を何ヶ月減らしたなどといって喜んでいる場合ではないのである(自戒を込めて)。
|