公設事務所設置検討協議会スタート


公設事務所設置検討協議会 座長 山 田 幸 彦

1 「都市型公設事務所」とは

 「都市型公設事務所」という言葉を聞いても、イメージが浮かばないとか戸惑いを感じる会員もおられるかも知れない。
 日弁連は、1996年の「弁護士過疎地における法律相談体制の確立に関する宣言」(名古屋宣言)以来、弁護士ゼロワン地域の克服を目指して努力してきた。その一環として、各地に公設事務所を設置してきており、現在ではその数は25に達している(この他に、公設事務所から地元に定着した事務所に発展したものが2個所ある)。当会でも、小久保豊会員が熊野ひまわり法律事務所へ、平良卓也・若松恭子会員が輪島ひまわり法律事務所へ、それぞれ赴任されたことは記憶に新しい。
 「都市型公設事務所」とは、このような過疎地の公設事務所とは異なり、都市部に設置する公設事務所のことである。
 最近、規模の大きい弁護士会において、「都市型公設事務所」を設置しようとする動きが強まっている。その狙いや目的は必ずしも一様ではないが、ほぼ共通するのは、クレサラ、DV、少額事件等都市部にも広く存在する「事件過疎」の解消を目指し、あわせて過疎地派遣弁護士や弁護士任官等のベースキャンプの役割を果たすことを目的としていると言えよう。
 当会でも、このような「都市型公設事務所」を設置すべきかどうか、設置するとした場合にはどのようなものを構想すべきかというのが、今般スタートした当協議会に与えられたテーマである。

2 協議会が設置された経過

 前年度末の2004年3月29日、法律相談センター運営委員会から会長宛に、「都市型公設事務所設置要望書」が提出された。同要望書は、当会においても都市型公設事務所を設置すべきであるとして、2005年度中の立ち上げを目指して、早急に関連委員会による協議会を設置するよう提案している。
 これを受けて、小川会長は、施策の3本柱の1つとして「司法アクセスの充実」を掲げ、役員就任披露宴においても、都市型公設事務所設置の検討を進めることを表明された(会報本年3月号3頁、4月号5頁)。いわば小川会長の公約と言える。
 当協議会は、このような経過により、6月1日、法律相談センター、刑事弁護、財務、司法改革、弁護士任官推進、法科大学院の各委員会と法律扶助協会に所属する委員を構成員として、設置された。

3 今、なぜ都市型公設事務所か

(1)都市型公設事務所の目的
 都市型公設事務所設置の必要性について、次のように言われている。

・都市型「事件過疎」の解消
 弁護士が相当数存在する地域であっても、一般の事務所では採算面や技術面から受任が困難な事件があり(例えば、DV、セクハラ、少額事件、消費者、労働、公益事件等)、これらを積極的に受任し、いわゆる「事件過疎」を解消するための受け皿が必要である。

・過疎地派遣弁護士の養成
 
現在は、過疎地へ赴く弁護士の養成は個々の協力事務所に依存しているが、総合法律支援法の成立を受けて、その養成をこれまで以上に強化する必要性がある。そのために、弁護士会として拠点(都市型公設事務所)を設けて組織的、継続的に取り組む必要がある。
 また、一旦過疎地へ赴任した弁護士が戻るときの受け皿にもなる。

・弁護士任官の拠点
 法曹一元を展望して弁護士任官の推進が求められているが、個人事務所を畳んで任官することはなかなか困難なのが実情である。裁判官を目指す新人弁護士を都市型公設事務所が採用し、そこで弁護士としての経験(とくに公益的事件等の)を積んでもらった上で任官していくことにより、安定的・継続的に任官の推進を図ることができる。
 アメリカでも、パブリックディフェンダー等を経験することが、裁判官への有力なルートになっていると言われている。

・裁判官等の他職経験の受け皿
 
「判事補及び検事の弁護士経験に関する法律」が成立し、平成17年4月から施行される予定である。職務従事期間は原則2年間とされている。基本的には個々の事務所が受け入れることになろうが、都市型公設事務所でも受け入れて、困難な事件等の経験を積んでもらうことは必要であるし、意義がある。

・司法支援センターとの連携
 「総合法律支援法」が成立し、平成18年4月「日本司法支援センター」設置、同年10月業務開始の予定である。民事法律扶助、公的弁護等の業務を担うことになっており、一定数のスタッフ弁護士が必要になると予想される。
 司法支援センターが弁護士会との連携を保ち、健全な形で機能するためには、都市型公設事務所を設置し、スタッフ弁護士の養成等を行っていく必要がある。

・法科大学院のリーガルクリニックの場
 本年4月から法科大学院がスタートしたが、使命感豊かな法曹を育てていくためには、大学と連携して公設事務所をリーガルクリニックの場として活用することも検討すべきである。
 現に、すでに某大学から当会に対して、リーガルクリニックの連携の申込みがある。

(2)全国の状況
・東京フロンティア基金法律事務所(二弁)
 過疎地派遣を主目的に設立。
・東京パブリック法律事務所(東弁)
 多目的(弁護士任官も位置付け)。
・北千住パブリック法律事務所(東弁)
 刑事事件中心。
・渋谷パブリック法律事務所(東弁)
 大学の敷地内。大学との提携型。
・渋谷シビック法律事務所(一弁)
 多目的(大学との連携も位置付け)。
・大阪フロンティア法律事務所(大阪)
 民事の公益事件中心(弁護士任官、過疎地 派遣も位置付け)。
・刑事こうせつ法律事務所(大阪)
 刑事事件中心。
 以上は既設の都市型公設事務所であるが、この他、北海道(道弁連)、横浜、岡山、福岡等で検討中と伝えられている。

4 協議会の進め方

当協議会は発足したばかりであり、検討はこれからである。
 とりあえず、・他会調査チーム、・事務所設立検討チーム(イメージづくり等)、・財務検討チームを設け、来年2月頃理事者に対して意見を提出できるように検討を進めることになった。
 この問題を検討するにあたっては、司法改革が大きく進む中で、弁護士、弁護士会のあり方や果たすべき役割を踏まえつつも、会内のコンセンサスに留意することがとりわけ重要であると考えられるので、議論の状況を会報や独自のニュース等で逐次ご報告し、会員のご意見を十分聞きながら進めたいと考えている。
 会員各位のご理解とご協力をお願いしたい。