実録、法科大学院の授業!


法科大学院検討特別委員会 教育研究部会長 山 田 尚 武

1(はじめに)

 本年4月に開講された、法科大学院。学生たちは「何を勉強しているのか」「どんなふうに勉強しているのか」「どのように取り組んでいるのか」。法科大学院の授業について、多くの会員の皆さんが関心を持っていると思います。しかし、法科大学院の授業を実際に見たことがある会員は、法科大学院において授業を担当されている先生方を除けば、少ないのではないかと思います。
 そこで、当部会では、法科大学院の授業の様子を会員の皆様にお伝えしたいと存じます。その際、次のような点に留意していきたいと思います。
 今回は、愛知大学法科大学院を傍聴した報告です。今後、名古屋大学、南山大学、中京大学、名城大学の各法科大学院の授業を傍聴する予定ですが、傍聴する授業は、各法科大学院の授業を担当されている弁護士の方と相談して決めます。また、本報告は、各法科大学院の授業の傍聴のみに基づいたご報告です。各法科大学院のカリキュラム全体の中における傍聴した授業の位置付けなどについて、間違い・誤解等があるかもしれませんことをあらかじめお詫び申し上げます。

2(愛知大学法科大学院の「刑事訴訟法」)

 私は、平成16年6月8日、愛知大学の車道校舎において、教育研究部会の部会員である鈴木隆弘弁護士とともに、加藤克佳教授による「刑事訴訟法」の授業(90分)を傍聴しました。学生19名。開校1年目の今年は、全員がすでに法学部において法律を履修し、かつ試験を合格した「既習者」でした。講師陣は加藤教授のほかに、当会の浅井正弁護士および前田義博弁護士をコメンテーターとする豪華な顔ぶれです。
 授業は、加藤教授のレジュメと加藤克佳他編著『法科大学院ケースブック 刑事訴訟法』(日本評論社、2004年)に沿って、質問と応答、そしてポイントごとに浅井および前田のお二人の弁護士がコメントするという形で進められます。今回の授業のテーマは、「被疑者の防御権」で、黙秘権、弁護権、接見交通権が主な内容でした。このテーマは、私たち実務家にとって、いつも目の前にあるテーマです。

3(「刑事訴訟法」の授業の様子)

 学生たちは、加藤教授の「黙秘権の憲法上の根拠は」「ポリグラフ検査は供述証拠か非供述証拠か」という質問を軽くこなし、「被疑者に取調べ受忍義務はあるか」という質問もなされました。実務はこれを肯定しているわけですが、この問題の悩みが深いのは会員の皆さんがよくご存知のとおりです。
 そして、平成7年の司法試験の問題「被告人が公訴事実について一切黙秘し、何らの主張立証をしない場合、これを有罪認定のための一証拠とすることが許されるか。また、量刑資料として考慮することが許されるか」という問題が紹介され、学生との間でディスカッションがなされました。模範解答は言うまでもありませんが、後者の量刑資料の問題は、今、自分が実務家として考えてみると大変難しい問題です。「黙秘の事実を量刑資料として考慮することが許されるか」という教授の問いに対し、ある学生が「黙秘していると軽くならない」と回答しました。彼は、素直に認め真摯に反省していることは、量刑を軽くする資料となるので、逆に、一切黙秘すれば、軽くはならないというのです。「法律用語を扱い慣れているな」「なかなか、法律を勉強しているな」という印象でした。
 次に、弁護権について、いくつかの法律上の規定が質問・確認され、本日のメインである接見交通権の話題となりました。ここで、ケースが提出され、それをめぐって、教授と学生との間で、両弁護士のコメントを織り交ぜながら、授業が進められました。ケースは次のとおりです。少し長いですが、引用します。
 「被疑者Xは、1月11日に強盗殺人罪の嫌疑を理由に令状によって逮捕され、同月13日検察官に送致された。同日中には検察官から勾留請求があり、勾留状が発付された。弁護士であるあなたは、Xの妻から連絡を受けた弁護士会の当番弁護士センターからXと接見するように依頼され、14日午前10時にXが勾留されている甲警察署の留置場に着いた。あなたがXとの接見を申し出ると、留置の担当者は、検事と電話連絡を取った。検事は電話であなたに、『これからすぐに調べのために検察庁へ押送させる。帰りは遅くなるので、今日は会えない。あすの午前9時30分から30分間接見させる』という」
 浅井弁護士が、途中、弁護人の接見交通権の確立のための「闘争の歴史」の一端をコメントします。「最初は、『一般的指定書』があって、弁護人が『具体的指定書』を検察庁にもらいに行くという屈辱的な時代があった。その後、この実務慣行を争う弁護士がいくつかの勝訴判決を勝ち取り、ファックスや電話による具体的指定が可能となり、最近では、一般的指定書そのものも減少傾向にある。もっとも、刑事訴訟法第81条の接見の制限はむしろ濫用されているほど多く、被疑者の接見交通については、今後も予断を許さない」(浅井弁護士)。また、このケースについてのディスカッションの中では、「第1回目の接見」であることが「重要な事実」であるとの議論がなされ、他方で、講師陣が、「強盗殺人罪という事実は重要なのか、これは捜査の必要性を重くするのか、それとも接見の重要性を重くするのか」という問いに対し、ある学生が、「罪の重さで変わるのがおかしい。軽い罪でも接見の重要性は変わらないのではないか」と力強く発言していたのが印象的でした。

4(おわりに)

 愛知大学法科大学院の新堂幸司院長は2004年度『法科大学院ガイドブック』の冒頭において、「わが法科大学院は、少人数のクラス、贅沢な講師陣による、ソクラテスメソッドを核とした、密度の高い授業をするつもりです」と述べておられますが、まさにそのとおりの授業が目の前で行われていました。この授業は、レベルも高く、登録2、3年目の弁護士が受講しても勉強になると思いました。
 また、講義終了後、2、3人の学生さんに質問してみました。この刑事訴訟法の予習に約3時間、出されたレポートの宿題に約3時間をかけるそうです。みなさんは1日でどれくらい勉強しているのかを聞くと「8時間から10時間」という答えが返ってきました。法科大学院の中には、各学生のブースがあって、24時間利用可能、中には徹夜して勉強している学生もいると伺いました。学生のよく勉強している!当たり前の事実に少し安心するとともに、自分たちの受験時代を思い出し、彼らに対しとても親近感を覚えました。