モンゴルに赴任してはや1ヵ月半が経過しました。始めのどたばたも落ち着いてきたので、時間があるときに裁判傍聴をして現地の裁判の現実を見ることにしました。
日本と同様モンゴルでも、憲法・裁判所法に「裁判は公開する」と書かれていますので、アポなしで裁判所に行ってみました。はじめに首都裁判所(日本の高等裁判所)に行ってみましたが、「今日は刑事事件で被告人が多数だから見れない。裁判の途中だから入れない」と言われ、見ることが出来ませんでした。次に区裁判所(日本の地方裁判所)に行ってみたところ、裁判所職員から「裁判を見るためには許可が必要である」といわれたため、「おかしいな」と思いつつ、裁判長に許可をもらいに行くと意外なことに「どうぞ、どうぞ」と言われました。この日は、結局裁判とタイミングが合わず傍聴は諦めて帰りました。翌日、同じ裁判所に行って法廷に入って裁判を見たいと裁判官に申し出ると「許可証は持っているか」と聞かれたので、「許可などなくても見られるはずではないか」と食い下がると、しぶしぶOKをしてくれました。これでは一般の人はなかなか裁判を自由に見ることは出来ないなと思いました。
この日の裁判は、乗合タクシーの運転手が交通事故を起こして、乗客らに怪我をさせたというものでした。まず始めに同じ弁護士として情けないと思ったのが、被害者側代理人の弁護士が20分遅れ、国選弁護人とおぼしき被告人の弁護士は40分遅れで法廷に入ってきたことでした。いかにのんびりした国とはいえ、不安な気持ちで待っている被告人のことを思うとちょっと胸が痛い気持ちでした。
法廷の形は、正面に裁判官、左手に検察官、右手に弁護人までは日本と同じですが、大きく異なるのは、市民の代表が座っていること、検察官の隣に被害者代理人弁護士が座っていることです。審理はきちんと裁判官がコントロールして、当事者全員に均等に発言の機会を与えているように見えました。被害者も傍聴席で起立して当事者らしき立場で裁判官や弁護士から質問を受けていました。検察官の求刑は、懲役3ヶ月、運転免許停止3年でしたが、被害者代理人の弁護士は、被害弁償を受けられなくなることを理由に運転免許の停止には反対し、被告人の弁護人は、過失の小ささを理由に3ヶ月の懲役にも反対していました。審理には約2時間を要し20分の休憩をはさんで即日判決となりました(即日判決は通常のやり方のようです)。日本の裁判に比べ、モンゴルの裁判のほうが、口頭主義、直接主義、迅速裁判の要請、被害者の権利保護には間違いなく合致していると思われました。
判決は、懲役3ヶ月の実刑判決。執行猶予もありうるケースだと思われましたが、国選と思しき弁護人が、あくびをしながら弁護を行い、判決を聞くことなく帰ってしまったことが原因であれば、同じ弁護士として誠に申し訳なく思う次第です。
民事事件については、現在、他の区裁判所でチャレンジ中ですが「裁判官の許可を取ってください。裁判所長の許可を取ってください。目的は何ですか。身分証明書を見せてください。」などと言われ、挙句の果てには「民事事件は時間がかかるし、見てもつまらないよ。今日は当事者が来ないからキャンセルになりました。」とまで言われ、いまだ傍聴できていません。このあたりの改革を私の目的のひとつにしようかなと思う今日この頃です。