岐路に立つ日本〜求められる国際貢献とは何か〜


平成16年5月15日(土)、中区役所ホールで憲法週間記念行事が開催されました。
 テーマは「岐路に立つ日本〜求められる国際貢献とは何か〜」と若干硬め。委員会内では、果たして一般市民の方が集まってくれるのだろうか……と内心びくびくでした。が、ふたを開けてみれば定員500名の会場がほぼ満席、立ち見も出るほどの大入りでした。


第1部 天木直人さんの講演
第1部は、「さらば外務省!」著者で元外務省官僚の天木直人さんの講演です。
 天木さんは、レバノン大使在任中、イラク戦争に反対し対米追従外交を批判する公電を小泉首相に送り、外務省を「さらば」しました。イラク戦争は明らかにイラク人のためではなくアメリカのための戦争であると言い切られました。
 また、ますますアメリカと一体となる方向に向かう今の政府・外務省にこのまま日本のあり方をゆだね続けても本当にいいのか、アメリカと一緒にテロの標的となってもいいのかと問いかけられました。現在、改憲論議が盛んだが、是非はともかくとしても、国民全員で頭を使って国のあり方を考え、平和の大切さを知るいい機会になると期待したいとのことでした。
 最後に、イラクでの日本人人質解放において民間が大きな貢献を果たしたように、これからは政府・官僚だけではなく、国民外交の時代であり、ここに求められる国際貢献のあり方のヒントがあると締めくくられました。


第2部 パネルディスカッション
 第2部は、中日新聞編集局長の小出宣昭さんをコーディネーター、天木さん、きくちゆみさん、当会会員小野万里子さん、中日新聞記者の星浩さんをパネリストに迎え、パネルディスカッションが行われました。

 きくちゆみさんは、9.11事件をきっかけにグローバルピースキャンペーンを立ち上げ、国際的な平和活動を展開されている方です。小野万里子さんは、ご承知のとおりセイブ・イラクチルドレン名古屋代表として活動されています。星浩さんは、記者としてイラクでの現地取材を重ねられている方です。
 まさに現場で活躍中の個性派パネリストと幅広い見識に基づき議論を上手に取りまとめると定評の小出宣昭コーディネーターにより、質の高い議論が展開されました。


〜日本は、自衛隊をイラクに派遣することですでに岐路の片方の道に踏み込んだ?〜
イラク戦争に対する小泉首相の支持表明後、中東の人々の対日感情が明らかに変わった。以前は日本人だというと取材もスムーズだった。バクダット陥落直後、毎日血を流した人が運び込まれてくる病院を取材しようとしたところ「出てけ!日本はアメリカを支持している。」と激昂された。サマワでの自衛隊に対する目は思ったほど悪くないが、結局、現地の人は背後にある日本企業を見ている。過大な期待感が失望に変わらないうちに早く政府にお金を出してほしいという現地の自衛官の焦りは相当なもの
小野 開戦前は「ヤーバニー、よく来た。どこから来た?東京か、広島か。」と歓迎された。が、開戦後は爆竹や石を投げつけられたりした。現地で「人をくれ」と言われたことはない。唯一「広島のドクターをくれ」と。劣化ウラン弾で苦しんでいるから。欲しいものは医薬品や医療機器。日本は今までお金と物しか出してこなかったが、それでいいのではと確信した。 
きくち 現在の日本とアメリカの関係は日本が貢ぎ続けるかぎりは良好。アメリカの人は情報をあまり持っておらず劣化ウラン弾のことも知らない。戦争をしている国は情報を隠す。戦争の最初の犠牲者は「真実」。アメリカにも何百万人単位で人が集まる大きな反戦運動など平和への努力はある。対テロ戦争というが本当のテロリストは誰なのか。
小出 国連でも「テロ」の定義は未だ定まっていない。定義がないのに対テロ戦争はありうるのだろうか。


〜人質事件の際の自己責任論〜
天木 政府のまやかし。
きくち 自己責任より戦争責任を問う。
小野 危険のあるところにあえて行かなければいけないというNGO、ボランティア活動の本質について全く理解を欠いた議論。現在および将来の活動に、悪い影響を与えている。
危機管理に多少の問題があったことは否めないが、自衛隊を出した以上は民間人が行くのは困るという一方的な政府の理論。
小出 自由国家の誇りが失われつつある。


〜国民外交の時代〜
小野 外交は政府の特権ではないことを人質事件で痛感。高遠さんらの活動内容をイラクの友人がネットワークで語ってくれたことが解放への大きな力になった。毎日のように現地からの情報がメールや電話で入った。市民の働きが大きな渦を作っている実感。国民外交に期待できる。
きくち 悲しいイラク戦争で一つだけ良かったことは、市民が国境を越えてつながったこと。開戦前に70カ国2000万人が同時に立ち上がった。
小出 個人と個人のつながりがいかに大きな力になるかということ。「公」と「私」の間の「共」の概念が大事になる時代。


〜9条について〜
天木 9条と安全保障条約は完全に背馳。
きくち 人権の基本は9条。戦争では人権は守られない。日本ができること、それは平和憲法を世界に広めること。
小野 大学で学んだ9条の大切さは今も変わらない。日米同盟の段階的な解消に智恵を絞らなければいけない。
改憲は日程に上ったら難しいと言われているが、例えば国民投票の前日に弾道ミサイルが飛ぶようなことがあったら……。


第3部 懇親会
行事終了後、肉のスギモトで開催された懇親会も、コーディネーターとパネリストの皆さんにご参加いただくことができ、大いに盛り上がりました。
 懇親会で天木さんが「憲法は現実離れしていてもいい。理想を掲げるべきだ。我々は果たして現実を理想に近づける努力をしてきただろうか。私は今まで現実に直面する仕事をしてきたが、残りの人生は理想を追い求めていってみようかなと思っています。」と挨拶されたのが印象に残っています。

最後に
今回、会場から寄せられた質問票は108通にも及び、この問題に対する市民の関心の高さを窺い知りました。この時期に弁護士会として今回の企画を開催したことは、市民一人一人が自分の頭で考えて行動するためのきっかけとして大変有意義だったのではないかと思います。