平成15年度人権賞 医師 高橋昌久さん


人権擁護委員会委員 川口 創

〈子どもが「子どもらしく生きる権利」の実現に取り組む青年医師、高橋昌久さんに人権賞〉
 名古屋弁護士会が毎年人権の擁護・確立のための活動を行った民間の個人、グループ、団体を表彰している名古屋弁護士会人権賞の受賞者は、今年度は豊田市で小児科医院を開業している高橋昌久さんに決まりました。
 当会の人権擁護委員会・人権賞小委員会に高橋さんの調査・報告をした立場から、高橋さんの紹介と氏へのインタビューを報告させていただきます。
 高橋さんは、子どもが「子どもらしく生きる権利」を正面から見据え、不登校や虐待の悩みを抱える子どもたちの問題に、医師としての職業の枠を越えて、多面的な取り組みを行っています。

〈高橋医師の略歴〉
 高橋さんは、昭和61年に香川医科大学医学部に入学、平成4年3月に同大学同学部を卒業し、平成4年5月29日、医師資格を取得。
 平成7年4月に名古屋大学医学部付属病院小児科医師として就任し、翌8年4月に名古屋大学大学院医学研究科博士課程に進学し、内科系小児科学を専攻。
 平成9年6月より、名古屋大学医学部付属病院小児科外来で、小児消化器心身症外来を担当し、その中で子どもや親の抱える問題に直面。
 平成11年に、子どもの虐待防止ネットワークあいち(CAPNA)に入会し、医師として児童虐待の問題などに関わるようになり、現在同会の理事を務めるようになります。
 平成12年3月に名古屋大学大学院医学研究科博士課程内科系小児科学専攻満了。同年に臨床心理士の資格も取得します。
 同年4月より厚生連加茂病院小児科医長を勤め、平成14年10月より、愛知県豊田市に「こどもクリニックパパ」を開業し、小児科外来とともに、子どもや親の精神的なカウンセリングなども行っています。
 また、平成15年4月より、スクールカウンセラーとして、豊田市内の中学校に週2回出勤しています。
 
〈活動の経緯〉
 高橋さんが、平成9年ころ名大付属病院で小児消化器心身症外来を担当していた時のことです。検査をやっても異常がないが、何となくおなかが痛いという子どもたちが外来を占拠し始めました。そういった子どもたちに対し、「話だけでも聞いてみるか。」と気軽な気持ちでカウンセリングもどきのことをしていたある日、ひとりの女の子が突然心情吐露をはじめます。
 父親からの性虐待の話でした。
 高橋さんは、カウンセリングは、生半可な気持ちでやるべきではない、と悟るとともに、一度吐露されたその子どもの心情を受け止めないわけにはいかないと試行錯誤をします。そしてこれをきっかけにCAPNAとの結びつきが生まれ、児童虐待の問題に精力的に取り組むようになります。
 高橋さんの児童虐待問題への取り組みは、豊田・加茂地域で市民を対象に小児疾患研修会を立ち上げ、また、自身の勤務病院で「児童虐待対策委員会」を設置し、あるいは学校関係者を対象とする虐待防止講座の講師を務めたり、県医師会内での協力医師のネットワーク作りなど、広範囲にわたります。
 また、平成14年10月に豊田市に小児科医院「こどもクリニック・パパ」を開業し、心療内科としての枠を設け、不登校の子どもや、父母に対する診療を行っています。
 高橋さんは、CAPNA、児童相談所、医師や学校関係者など、多くの社会的資源を、不登校の子どもたちなどへの処方箋として用いて、子どもの抱える問題を一つ一つ解きほぐそうとしています。
 子どもが「子どもらしく生きる」ことが難しくなっている昨今、「子どもらしく生きる権利」を真正面から見据え、不登校や虐待の問題などを抱える全ての子どもたちに正面から向きあう姿勢が評価され、人権賞が授与されました。

〈人権賞のこと〉
 人権賞は、平和・人権のために献身的な活動をする個人や団体に対して名古屋弁護士会が毎年授与している賞で、今年で15回目になります。
 候補者の中から受賞者を選考する選考委員会は、弁護士以外の学者・マスコミ関係者などから5名と弁護士4名で構成され、多角的な観点で意見を交換し合いながら、決定しています。
 今年も多数の優れた活動を行っている個人・団体が候補に挙がりました。
 それぞれ素晴らしい活動をされている候補者ばかりですので、今後機会があれば、また御紹介をしていきたいと思います。


〈インタビュー〉
―――人権賞の受賞おめでとうございます。受賞された感想はいかがですか。
 子どもが子どもらしく生きられるように、との願いで活動してきました。それが「人権」という2文字に通ずることを、受賞して初めて知ったという感じです。
 他方で、自分のことを見つめられたことで、ようやくスタートラインに立てたのかな、という気持ちです。
 この賞は、「これから頑張れ」というメッセージとして受け止めたいと思います。

―――授賞式にはCAPNAのメンバーも大勢かけつけてくれたそうですね。
 はい。皆私の保護者のようなものですから。「おめでとう、今度受賞パーティーをやろう」と言ってもらいました。

―――開業医として、今後どのような活動をしていこうとお考えですか。
 子どものことに関心を持ち、外にでていく医師があまりいません。病院の外に出て、虐待の問題などにも積極的に取り組む医師の仲間を広げていきたいと思っています。

―――地域との関わりとしては、どういった活動をしていこうとお考えですか。
 たとえば、小学校と中学校とが断絶していて、小学校の時にある子どもが抱えていた問題などが、全く中学校に引き継がれません。これでは、子どもの成長に即した息の長い関わりが出来ないのではないかと思っています。
 スクールカウンセラーとして学校により深く関わり、小学校と中学校との橋渡し役にもなりたいと思っています。

―――今後の抱負などをお願いします。
 今やっている活動を地道に進めながら、徐々に仲間を広げていきたいと思っています。
 あせらず、こつこつやっていこうと思っています。

―――是非頑張ってください。
 今日はどうもありがとうございました。