子どもが学ぶ法の精神〜新しい法教育への挑戦〜


会員 竹 内 景 子

 平成15年10月3日、ウェスティンホテルナゴヤキャッスル天守の間において、「子どもが学ぶ法の精神─新しい法教育への挑戦─」と題して、中弁連シンポジウムが開催された。

2 シンポの主役
 今回のシンポジウムの最大の主役は、弁護士を交えた授業に参加し、シンポ会場最前列に顔を揃えてくれた、名古屋市立桜山中学校3年の175名の生徒さんたちである。
 また、今回は、愛知県教育委員会及び名古屋市教育委員会の後援を得て、弁護士だけでなく、教育関係者を始めとする多数の市民の参加もあり、参加者数は、500名を超え、過去最大となった。

3 授業風景のビデオ上映
 まず、今年7月に桜山中学で行われた、弁護士講師派遣モデル授業の様子を撮影したビデオが上映された。
 授業テーマは「少年事件における少年に関する情報公開の是非について」である。
 弁護士3名がそれぞれ司会者、賛成派弁護士、反対派弁護士となって参加したディベート授業を中心に、教師と弁護士の準備、事前授業、ディベート後のまとめ授業の様子が紹介された。
 一連の授業を通じて、子どもたち一人一人が、少年の情報公開に賛成か、反対かという正解のない問題について、自分の考えを持ち、他人の意見を聞いたり、調査をしたりして、自分の考えを見直しては、また自分で考える。
 難問に真剣に取り組む子どもたちの姿に、まず圧倒された。また、弁護士が参加したディベート授業では、応援演説をする賛成派・反対派弁護士に子どもたちの視線が一斉に注がれ、弁護士がどんな発言をするのかと興味津々な様子が印象的であった。弁護士の応援を受けた、賛成派反対派の子どもたちが、互いに相手の意見を尊重しながらも、自信を持って持論を展開していく様子も見事であった。当初、賛成多数であった少年の情報公開についての意見は、弁護士が参加したディベート終了後には、反対多数に逆転した。
 この授業を通して、子どもたちは、正解のない問題があることを経験として知り、また、自分の意見をきちんと根拠を示して説明するとともに相手の意見も聞くというコミュニケーションの基本的な方法を学んだといえよう。
 学校と弁護士が協働して行っている法教育の実践例の紹介として、非常に見応えのあるビデオ上映であった。

4 パネルディスカッション
 続いて、野坂佳生弁護士のコーディネートにより、パネルディスカッションが行われた。
 今回のパネルディスカッションでは、愛知教育大学教授である子安潤氏、名古屋弁護士会講師派遣事業の立ち上げに関わった現城山中学校校長梅本哲男氏、今回のモデル授業で協働した桜山中学の所義人教諭と矢崎信也会員、以上4氏のパネリストが、会場の子どもたちに直接、意見や感想を求めながら、討論を進めるという斬新な試みがなされた。
 子どもたちは「他人の意見を聞いて、違う考えもあるということを知ることができてよかった」「授業を受けて今まで他人事と思っていた問題を自分だったらどう思うか、まず考えたらいいと思うようになった」「楽しかったので、参加できる授業がいい」等々、大勢の大人の前で話してくれた。子どもたちの率直な意見・感想は、「子どもが学ぶ」というタイトルが示す「子ども主体の法教育」を考える今回のシンポにとって、欠くことのできない貴重な意見であったと思う。
 また、今までの法教育の実践例の紹介を踏まえて、弁護士が法教育に関わることにより得られる効果や、これからの法教育について、パネリストによる討論がなされた。そこでは、弁護士が法教育に関わることによって、「子どもが弁護士にまずなじみを覚え、いろいろな考え方があることを知り、子どもの思考過程に影響を与える」という指摘や、「生徒自身が考えて生徒自身が判断できていくという機会を組み込んだ学びにすることが必要である」「自分の意見を持ち、他人の意見も聞くという授業での体験は、自分を大切にし、他人も大切にするという法の精神を日常生活に活かすためのステップである」という意見などが出された。

 「法の精神を学ぶ、新しい法教育」の可能性に胸が躍るシンポジウムであった。