2001年10月16日午後12時30分より、表記のテーマでシンポジウムが開催された。他の分科会のテーマと比較して、どれくらいの参加者が集まるか危惧されたが、最終的に会場がほぼ埋め尽くされるばかりの544名(うち一般参加者187名)もの人が、午後6時まで5時間30分もの長時間にもかかわらず、発表や白熱した議論を熱心に聴いた。
藤井克己日弁連副会長の開会の挨拶がなされ、田辺信介愛媛大学教授から有機塩素系化学物質や環境ホルモンにより、ヒトや海洋生物が地球規模的に脅かされている現状が紹介され、またダイオキシン汚染被害者や化学物質化敏症の患者の方から被害の実態が明らかにされた。
スェ−デン国際化学物質事務局所長のパー・ロザンダー氏は、「私たちは、化学物質の知識が欠如しており、製品に含まれる化学物質の大部分は立法によってカバーされていない。現在のシステムは過度に官僚的で、環境破壊が継続していても対策に時間がかかりすぎる。消費者は、化学物質に関する情報についての知る権利がない。有害化学物質による被害のシグナルに十分に注意を払わないために、既存の化学物質政策は、ヒトの健康と野生生物を保護することができない。スウェーデンやEUでは、化学物質による被害の恐れがある場合には、科学的解明が不十分であっても、十分な防護対策をとるべきであるという予防原則(日弁連、分科基調報告書182頁参照)及び、この原則に基づくREACHシステム(同報告書143頁参照)がとられている。」と発表した。
パネルディスカッションに入り、燃焼すると猛毒のダイオキシンが発生するといわれている塩化ビニールを使用することが是か非かの「予防原則」についての議論になり、日本化学工業協会の小倉正敏氏が「塩ビが何故いけないのか分からない。」、経済産業省の安栖宏隆氏が、「塩ビの使用を禁止するという議論は、交通事故の死傷者が出るから自動車の使用を禁止するという議論と同じである。」、安井至東京大学教授は、「塩ビは、便利な商品であり、これに代わるものはない。塩ビは、22世紀まで使用されるものと思っている。」との発言がなされ、これに対し、化学物質問題市民研究会の藤原寿和氏は、「塩ビの生産、使用、廃棄の過程でダイオキシンや環境ホルモン物質が発生し、問題であり、これの暴露量やリスク評価が行なえないので使用は避けるべきであり、代替品に変えることができる。」などの発言があり、白熱した議論となった。
スウェーデンは、第二次大戦後、高福祉国家の実現という国家目標を掲げ実行してきたが、1999年から、「持続可能な国家社会の実現」という国家目標を掲げ、有害化学物質について、2020年までに「毒物のない社会を実現する。」という世代目標を立て、国家をあげて実行しようとしていることが私にとって非常に参考になった。有害化学物質を使い続けていては、ヒトや生物は世代を超えて生き残れない。持続可能であるためには、ヒトや生物が環境の中で生き残るためには、ヒトの便利さや経済成長のみを追求するのではなく、現在のヒトの行動や社会システムを将来のために現時点で予防的に変えなければならないと思われる。