第1分科会シンポジウム「あなたを一人にしない!」に参加して


会員 宇 田 幸 生

1 はじめに
 去る平成15年10月16日及び17日に松山にて開催された人権擁護大会では、犯罪被害者の権利の確立とその総合的支援を如何になしていくかとのテーマにて、第1分科会(4部構成)のシンポジウムが開催された。紙面の都合上、十分ではないが、以下、その概略について紹介したい。

2 第1部について
 第1部においては、前半に全国犯罪被害者の会代表幹事である岡村勲氏より犯罪被害者の現状に関し、後半に実際に被害を被った被害者の方からの体験談について、それぞれ講演が行われた。岡村氏の講演において印象深かったのは、いわゆる犯罪者には刑事や民事における時効が存在するが、犯罪被害者には時効が存在しないとの言葉であった。
 岡村氏は、その講演の中で犯罪者と犯罪被害者とでは国家予算の面においても大きな格差が存することを指摘され、犯罪被害者の経済的回復については犯給法だけでなく年金制度を整備することにより国民全体にて負担すべき問題であること、近時整備されつつある刑訴法や犯給法ですら不十分であり、被害者の権利を中心においた犯罪被害者基本法の制定が急務である旨を述べられていた。
 岡村氏の講演の後は、平成6年にある男性からガソリンをかけられて火傷による重傷を負いながらも一命をとりとめた長崎の被害女性から、実体験を元にした講演が行われた。
 被害女性の方は、一連の体験を通じもっとも苦しんだことは治療費や生活費等の確保という経済的な問題であったことを述べられ、国費による経済的支援の必要性を強く訴えかけられていた。また、法律相談にて弁護士から心無い発言をされ、大きく傷つけられたことも体験談として述べられ、弁護士の相談のあり方自体についても問題提起がされた内容であった。

3 第2部および第3部について
 第2部においては、ドイツ型の被害者参加型刑事手続が模擬裁判形式の劇でなされ、第3部においては、当該劇を踏まえて被害者の刑事手続参加に関してのパネルディスカッションが行われた。
 劇においては、検察官が傷害致死であるとして起訴したのに対し、被害者は本件が借金を免れる為に殺害を行った強盗殺人であると主張して手続に参加し、参加人は独自に証拠申出を行い、さらに求刑まで行うという内容であり、大変興味深いものであった。
 上記のような被害者参加型手続については、被害者の当事者性や被害者の要望を踏まえてその実現を求める賛成意見に対し、刑訴法の目的論や参加による弊害(私的闘争の場となりかねない等)からこれに反対する意見が述べられ、日本において当該制度を取り入れるには、相当な議論を要するであろうことが痛感させられる内容であった。

4 第4部について
 第4部においては、被害者と加害者の対話(いわゆる修復的司法)につき、具体的事例として千葉における対話の会や岡山におけるあっせん仲裁センターの活用による実践例が紹介され、対話の実現にあたって、もっとも懸念される対話による二次被害防止策(・十分な事前準備及び事後のケアの必要性、・対話に適した事件の選別等)についても意見交換がなされた。本制度については賛否両論が存したが、いずれは被害者支援制度の一つとして提供できるようになることが望ましいと感じられる内容であった。