1.委員会の設置。何故県外の私が?
昨年5月、突然に長野県知事秘書室から公共工事適正に関する委員会の委員に委嘱したいが、との連絡を受けた。知事の強い意向で、公共工事の入札を透明で公正なものにしたいとの事であった。私は、日弁連消費者問題対策委員会で9年間談合解消の活動をしてきた。委員は5名で、私のほかに弁護士大川隆司(横浜弁護士会)、同松葉謙三(当時三重弁護士会、現在は長野県弁護士会)、同上条剛(長野県弁護士会)及び大学教授鈴木満氏であり、いずれの方も私もよく承知している談合解消の専門家であり、また、4名が県外からの人選で、知事のやる気がうかがわれた。私達は、委員会設置要綱に「公共工事について不適切な点、改善すべき点があると認めた場合において、知事等に意見の具申を行うことができる」との条項を入れることを要求し、それが受け入れられたので、いずれも委員就任を受けた。
2.長野県にも談合が蔓延していた
平成13年度の落札率(予定価格に対する落札金額の割合)が約97%、5000万円以上の工事で2回入札が行われた件(1回目の入札ですべての者が予定価格を上回った場合、2回目の入札が行われる)ですべて1位不動(1回目と同じ会社が最低札)であった。談合の海といってもいい状況だった。第1回目の委員会にて、入札制度改善には現状が談合だらけである、談合してくださいと言わんばかりの制度であるということの認識が必要と思われるが、どうか、との問いに土木部幹部役人は、「談合はないものと信じたい」とのあいまいな答えで、前途多難を感じさせた。
現在、日本のほとんど全国で談合が蔓延している。改革が進行しているのは長野県、宮城県、横須賀市など数ヶ所にすぎない。
3.ほとんどが官制談合である
政・官・業癒着構造の端的な表れが入札談合である。長野県も指名競争入札が主流であった。10社程度を指名し、なぜか入札前に10社を公表していたのである(10社の話し合いは容易である)。予定価格は慣行として、それとなく暗示されており、指名権限、予定価格設定権限を有する官を業者は天下り役人として受け入れざるを得ない。
4.官僚に自己改革はできない
官僚の天下り願望は無限である。平成6年、ゼネコン汚職が連日新聞をにぎわせていた当時、日弁連で懇談会を行った。建設省幹部は「談合があるとは思わない、もしそうなら、建設業界は(他の自動車業界などに比べて)もっと儲かっているはずである」と述べた。この真意は、自分が管理する業界を儲かる業界に育成し、天下り先としたいと受取られた。
長野県でも国土交通省等の指導に基づき談合防止のため談合情報処理マニュアルを作成し、公正取引委員会に通報する制度を実施していたので、その実施状況を調査した。マニュアル通り「事情聴取書」に「やっていません」と書かせて、公取委に報告しているという。これでは談合摘発防止のためにやっているといわざるを得ない。実情はあきれ返るばかりの談合容認である。
多くの地方公共団体で工事の丸投げが問題にされているところ、某市の例であるが、落札業者の下請予定価格さえも情報公開に応じていない。これは禁止されている丸投げを容認しているようなものだ。アメリカでは入札書に下請業者と下請価格も記入させ、50%以上の自己施行を求め入札書の記載を厳守させている。日米大違いである。
5. 改革は簡単、やる気だけ
談合をなくさせるには、指名制度を廃止し、対象地域を拡大して50社から100社程度の入札参加を見込める一般競争入札制度にすればよい。同県では委託業務(設計業務委託)について、平成14年11月下旬から郵便による一般入札制度に移行させた。建築土木工事に関しては、平成15年2月から同制度を試行している。
公共団体からは、一般競争にすると、入札の事務量が膨大に増え、事務が煩雑になり、その分経費も増えるので困難との指摘が以前からあるが、事実は全く逆である。指名入札であると指名のための事前審査などが大変であるが、一般競争は事前審査が省かれ、最低入札価格札のみを事後的に審査すればよいので、むしろ事務量は少ない。
改革はトップ(知事、市長)の決断で容易に実行することが可能だ。田中知事は、公務員の公僕性を徹底させ、税金の無駄遣い、不正使用解消を誓っている。田中氏のキャラクターではあるが、そろそろ全国的に広がってほしいものだ。愛知県、名古屋市は談合事件が続発しており、知事、市長の自覚を促したい。
6.改革の効果は絶大
郵便一般競争入札試行の結果の落札率は次の通り